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■ □ 幸せな村の愛の樹■ □ 

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大学での生活もこの十数日で終わりだ。


しかしこの時はまだ彼はこれから先も大学を卒業できない事を知らなかった。




「もうこの大学ともお別れだな・・・」
彼は幸村 愛樹(ゆきむら あいき)なんとか無事に単位も修めて就職も決まり、あと残るは卒業のみというところまで来た。


「早く社会人にならないと…って思ってたけど…卒業したいような…まだ残っていたいような…不思議なもんだな…」
彼は講義室に一人だけで残っていた。


友人たちは大騒ぎをしていて卒業の前祝に飲みに行こうという話になっていたがなんとなく学び舎をじっくりと見ておきたいような気がして彼はそれを断ったのだ。


「しかし…あいつらこれはないだろう…」
あちこちを見て回るうちに彼は階段の鏡の前に立ってため息をついた。そこには身長が162センチほどしかない銀縁の眼鏡をかけた金髪の少年が映っていた。


色白で、華奢な体つきをしている。一見しただけでは男か女か分かりにくい。少し長めの前髪と眼鏡のせいで愛樹の顔の全貌はしっかりしない。


友人らはまだお酒が入っていない段階からかなりのハイテンションで愛樹の髪をスプレーで金髪にしてしまったのだ。シャンプーを三回ほどしたら落ちるといっていたが…大量にかけすぎたようで今も既に落ちて肩に金色が広がっている。



飲み会を断った事もあり。拒みきれなかったのだ。



「まぁいいや…帰ろ」
彼は大学に入ってからずっと愛用しているリュックを背負って大学を後にした。



「うげ!!サイアク…」
外に出たらずっと曇り空で怪しい天気だったのだがパラパラと雨が降り始めたのだ。

しばらく逡巡したがこのくらいの雨ならばどうにかなるだろうと愛樹は少し早歩き駅へと向かった。




しかし段々と雨足は強くなる一方で雷も鳴り始めた。駅まではどんなに急いでも15分はかかる。

愛樹はすっかり濡れ鼠になってしまいズボンには急いだために盛大に泥が跳ねて酷い状態になっていた。
「あ〜あ…これじゃあ…電車に乗るの無理かな…」
自分の姿を見て愛樹はため息をついた。



髪の毛のスプレーは3分の一くらい落ちて服にべったりと付いているし、ズボンは雨水と跳ね上がった土でドロドロ。とりあえずどこかコンビニにでも入ってタオルか何かを購入して適当に拭くしかないだろうと判断した。


駅近くのコンビニでは売っていないので駅から離れてしまうが愛樹は別のコンビニに急ごうとした。



「…?」
その時に何かに呼ばれたような気がして愛樹は振り返った。




しかしそこには何も無い。




…おかしい。


ついさっきまで人がいてすれ違ったはずの人間すら見当たらない。



全ての時が止まったかのように静寂に包まれた途端…愛樹の意識は奪われ、姿はその世界のどこにも存在しなくなった。

 

 

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