■ □ 幸せな村の愛の樹■ □ 

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『何だこれは!!成功かと思ったら小汚い男ではないか!!』
恐らく近くで誰かが話をしているようなのに…愛樹のぼんやりとした意識の中ではかなり遠くに声が聞こえる。


まだ愛樹は意識がはっきり覚醒していないのだ。


『しかもこんな小僧。何の役にもたたぬ』
少しずつ浮上してきた意識に『音』が聞こえる。

それは愛樹が理解する言語ではなかったので言葉として理解できなかったのだ。


『しかし…王。今まで人間を出現させた事は一度も無かったのです。何かの吉兆のあらわれではありますまいか?』
別の声が加わった。


『それもこれも…貴様が邪魔だてしなければ成功したのだ!!』
激昂したような声。


『お言葉ですが…そもそもこんな儀式を思いつきでするのは浅はか過ぎたのです。簡単に成功するようなものではありません』
また別の三人目の声が聞こえるが…前に聞いた激昂したような声や動揺した声に比べたらとても落ち着いた声だった。


愛樹はその声を聞いた辺りから一気に意識が覚醒してきた。まるで何かに惹かれるように…




「ん…なに?ここは?」
まだ目をまともに開ける事ができなかったがうっすらと明けると愛樹がいる場所は祭壇のようになっていた。


天井を見上げるとかなりに広い空間であるのはわかった。

天井の装飾をみても建築物として完成度の高い技術が使われているのが、そんな知識の無い愛樹にもなんとなく分かった。

恐らく愛樹が居る場所がその部屋の中で一番高い場所になるのだろう。



その祭壇の下には人が楽に5人は立てるような円形のスペースがあり階段がその下に五段ほどある。愛樹の寝ていた祭壇から濃紺の絨毯が恐らく入口だろうと思われる重厚な扉まで伸びていた。


それ以外は立派な柱が随所にありいたってシンプルでありながら長い年月を思わせるようなただならぬ雰囲気が漂っていた。


「な…!?何だ??ここは??」
愛樹は飛び起きるようにして呆然と体を起こしてみた。



『異界の客人殿。目が覚められたのですね…』
動揺を隠せなかった人物が愛樹に声をかけてきた。

しかし全く聞いた事もない言語だったため愛樹にはなんと返答したらいいのか分からなかった。
「え〜っと…???」


その姿をまじまじと見ていると初老の男は元いた世界では修道士が着るような濃紺のシンプルな長い衣服を着ていて腰にはゆるく白い布を結んでいた。肩には装飾の凝った布をかけている。下の衣服に比べてそれはとても豪華だが全体のバランスを崩してはいなかった。



『言語が全く違うもののようですね。失礼します』
彼はおもむろに愛樹の額に右手の人差し指を当て何事か呟いた。


咄嗟に愛樹は身を引いた。すると触れていた部分が淡く発光してその光は愛樹の額の中に吸い込まれていった。
「な…??今の何??」
愛樹は初老の男から、ざっと体を離して額に両手を当てた。



「よかった…異界の客人殿。我々の言葉を解することができますか?」
さっきまでは音としか判断の出来なかった言葉がまるで日本語のように頭の中にすんなりと入ってきた。
「え??言葉が…??」
愛樹にとって驚く事ばかりの連続で普段の数倍、脳の回転数が落ちていた。まともに会話を成立させることができずにいた。



「センジハー!こんな薄汚い子どもにわざわざ術などかける必要は無い!!」
穏やかに話しかけてきてくれていた初老の男性に向かってさっきから大きな声をだして激昂している男が怒鳴った。その男はこの中の誰よりも豪奢な格好をしていた。


装飾品をたっぷりと使い自分の権威や身分を前面に押し出したような衣装だ。

格好を見たら年寄りのように感じたが顔立ちを見る限りそんなに年ではないのかもしれない。金に薄く茶を刷いた髪に緑っぽい青の瞳の男だった。



{何?この人。感じ悪いな…}
愛樹は言葉や顔にはあまり出さなかったがこの男にはかなりの悪印象をもった。こういう衣装で自分を大きく見せようとする人物にろくな人間がいないと思っているからだ。

実際に愛樹はそんな人物が居た事を知っている。もう会うこともないが…



「しかし、王…この方は我々が半ば無理矢理にこちらに来ていただいたのです。言葉も解さなければ生活にも困りましょう」
初老の男、困った様子を見せながらセンジハーは王の前に立ち話をした。



今の話を反応の鈍い頭の中で反芻していた愛樹に突然一つの単語が頭の中にはじき出された。
「はぁぁ!!?!?あんたが王??」
と大きな声をだしてしまったのだ。


{趣味悪!!!}
流石に後半はいくら何でもまずいと思って声には出さなかったが王様はその言葉にかなり憤慨したようだ。



「小汚い庶民ごときが!!我を愚弄するか!?この無礼者!!!」



腰に付いていた装飾刀を愛樹に向かって振り上げてきた。流石にまずいと思って愛樹は咄嗟に身をかばった。


…しかしいつまでたっても痛みは体の何処にも見られない。興奮しすぎてさては外したか??といささか失礼な事を思って恐る恐る目を開けた。



そこには一面に広がる暗緑色。三人目の声の主が助けてくれたのだと悟った。彼の左腕が体の側にある。少し目を上に向けると金と青銀を足したような不思議な色合いの髪が見えるばかりだった。


「…王。こんな丸腰の相手にその様な物を振り回すのは如何なものか?」
落ち着いた声が目の前の背中から聞こえる。



「っく…!もうよい!エディセルド離せ!」
王は言葉につまったかのように視線を反らせた。振り下ろした装飾刀をエディセルドという男の右腕から振り切るようにして自分の腰に王は仕舞った。


するとそれまで自分の憤りを隠すことも出来ずに苛々としていた様子から一変して王はにやりと機嫌が上昇してきて碌でもない事を考えている表情をした。

 

 

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