● ○ ●勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ ● ・・47・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いよいよ神子のお披露目が近づいてきた。
葵は特にいつもと生活を変えるような事をしていなかったが、まがりなりにも王宮に行くのだから普段着というわけにいかない事に気が付いた。
そもそもドレスコードを意識する場面がなかったともいう。
「どうしよう・・・晴れ着?なんて持ってないし・・・」
葵は本当に困り果ててしまった。
今は町の中も聖誕祭に向けての話題で持ちきりで服屋もたくさんの綺麗な服を取りそろえていた。
近しい友達の誕生日とかなら簡単に選んでもいいのだが・・・いろいろ見て回ったものの全く見当も付かずに途方に暮れるしかなかった。
店のものが説明をしてくれるもののあまり話すことが得意ではない葵にとっては質問もままならずなにも購入をしないまま時は過ぎ、夕食の準備もあるので家に帰った。
夕食の準備もしながらペルに相談をした方がいいだろうかとも思った。
一緒にいくペルの恥にならないようにするなら彼の傾向を知っておく方がいい。
だがペルは時々ジラルドに会いにくる程度でそういつもいつも簡単には会えない。
やはり友人であるジラルドにペルが当日どんな服装をするかだけでも聞いておくべきだろうという結論に至った。
ただ一度もジラルドにペルと聖誕祭に行くとは言っていないのでそこから話をしなくてはいけないと思うと気が少し重かった。
隠していたつもりはないがずっと話さなかったなら同じ事。
でもこれをいつまでも隠しておくこともできないのだから相談してみようと葵は思った。
「購入に困ったら相談してもいいって前言ってくれたし・・・」
以前、葵が台車を買うのに困っていた時にジラルドはお金は好きに使っていい相談しなくてもいいと言ってくれた。
その上でどうしても困った時は頼りにしていいとも言ってくれていたのだ。
まだこの世界に来て不安だった葵にとってはそんな気遣いが嬉しくないはずがない。
だからずっと覚えていたのだ。
夕食をテキパキと用意しながらも頭の中ではぐるぐるとジラルドにどう伝えようかと葵は悩んだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ジラルドが脱いだ上着を葵が受け取ってハンガーにかけた。
ジラルドは首もとを緩めながらソファに座った。
「ご飯とお風呂どっちが先がいい?」
「・・・そうだな・・・先に風呂に入ってくる」
ジラルドは袖のボタンも外している。
「じゃあ、ご飯あたためなおしておくね。着替えはもう出してあるから」
「あぁ。ありがとう」
ジラルドはそのまま風呂場の方へ行ってしまったので葵はコンロにかけていた鍋に火を入れた。
「ごちそうさまでした」
ジラルドはいつものようにおかわりをして食事を終えた。
葵は食べた後の食器を片づけてジラルドと自分の分のお茶を用意した。
「あの・・・ジラルドさん」
「ん?なんだ?」
葵は遠慮がちに声をかけた。
ジラルドに内緒にしている事がすでにある葵はさらに重ねて秘密にしていることがあるというのが心苦しかったのだ。
しかもそれは話してもいい事のはずなのにずっと言わなかったからよけいに言い出しにくかった。
「・・・あの・・・ね・・・」
「ん」
ジラルドはおそらく今度のお披露目の事について言いたいことがあるんだろうという事はわかっていた。
葵がペルと行くことになったという報告すら話してくれない事に苛立ちを隠せなかったのは確かだ。
葵にはまず一番に頼ってほしいというのがあった。
だからようやく頼ってくれようとしている葵をせかしたりしないで待とうという気持ちになれた。
葵も鷹揚にかまえてくれているジラルドに安心したのか、なかなかはじめの一言がでなかったものの自分の気持ちを伝え始めた。
「あのね、今度の神子のお披露目にペルさんが一緒に行こうって言ってくれたんだ」
「ん」
ジラルドは内心その事がいまだにおもしろくなかったがせっかく葵が話してくれているからそれを表に出さずに続きを促した。
「それでね。王宮に行くのに着ていくものがないんだ。きっとドレスコードがあると思うんだけど・・・ペルさんとあんまりちぐはぐでもいけないから当日ペルさんってどんなの着るか聞こうと思って・・・」
「ペルの事なんか気にせずにアオイの好きな服でかまわないんだぞ?」
ついつい本音がでてしまっている。
ペルに合わせてやるなんてとんでもない。
「ん〜でも仮にもパートナーに選ばれてるから・・・その体面とかもあるのかと思って・・・」
葵は誘われた以上ペルにとって損になるような行動は慎みたかった。
折角の好意を仇で返したくなかったのだ。
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