君を望む ◆  

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我に返ったのは彼が隣に座って飲み物に手を伸ばしてからだ。

「ご、ごめん」
「ふん・・・」
僕はひどく狼狽えたが彼は僕をいちべつしただけでさっさと飲み始めた。

その間も所在なくて彼の飲み込む度に上下する喉仏をそっと伺い見る事くらいしかできなかった。

「・・・俺なんか見てなくていいから飲めよ」
彼は向こうを向いてしまうとぶっきらぼうに僕にも飲み物をすすめてきた。

ふつうに氷を入れたアイスコーヒーなんだけど彼に何かしてもらうという事が夢みたいでおそるおそる口を付けた。

彼のことで僕は思っていたよりも緊張していたんだろう。
冷たい飲み物はのどに気持ちがよくてすぐに半分ほど飲んでしまった。

机にコップを戻すとすでに飲み干して氷をかじっていた彼もコップを置いた。
これから話が始まるのかと緊張していたのに・・・



「・・・?」
彼は僕の膝を枕にソファから足をはみ出させてテレビをつけて最近DVD化された映画を付けた。

僕はポカンとするしかなかった。

彼からは特に説明もなく淡々と映画を見ているようだったので仕方なく僕も映画を見ることにした。

映画は面白くて僕はここが彼の家だという事も忘れて真剣に見入ってしまった。

感情移入までして切ないシーンでは涙ぐんだりもした。でも僕が映画に集中できたのはそこまでだった。

思わず切なくなった僕は膝元にある彼の髪の毛に触れてしまった。

今まで彼が寝ているときにしか触れたことがなかったというのに無意識にすがるものを求めるように髪をすくように触れてしまったのだ。

それに気が付いた途端、恐ろしさに一気に僕の顔から血の気が引いてしまった。

慌てて手を引っ込めようとしたけどうまくいかなかった。

「・・・そのままでいい・・・」
彼が引き留めた。

僕はどう受け取ったらいいのかと逡巡したがこのまま固まっているわけにもいかずそっとまた髪をすくようにしたら彼は何もいわなかったからこれでよかったんだと思う。

結局最後までそのDVDをこの体勢のまま見終わってしまった。

彼は何事もなかったかのようにDVDを止めると体を起こした。

僕はただその流れるよう動く彼の姿を目で追うだけだった。



「・・・っ!?」
次の瞬間僕は抱き込まれていた。

驚いて一瞬抵抗するようにもがいてしまったが、このままここで行為に移るんだろうと理解するとすっと体の力を抜いて・・・目を閉じた。

目を閉じたらよりいっそう彼のにおい、体温、気配を感じる。

ずっと膝枕をしていた足はすこししびれていたがこの行為が終わる頃には元にもどっているんだろうな・・・とどうでもいい考えばかりが頭の中に浮かんでは消えた。


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