君を望む ◆  

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「あ・・・もう昼休みおわっちゃった。行かなきゃ」
僕は大慌てで弁当を持って屋上から離れようとした。

「っぁ・・・!?」
いきなり彼が腕を引いてきたんだ。
なんだろう?いつもここで引き留められることなんか滅多にないのに。
かれは無言で下をむいたままだ。

何か言いたいことがあるんだろうか?何となく聞きたくないような気がする。

でも僕から何か言うこともできずにそっと彼を見上げた。

「放課後あけとけ」
それだけを言い捨てるように言うと彼は足早に僕より先に屋上から離れていった。

どうしたんだろう?

また・・・彼の部屋に行けるかなぁ?

「・・・期待しちゃだめ」
僕はどこかで諦めながらも期待することもやめられない。
我ながら欲深いなぁとため息がでた。

昼食後の授業なんて満腹だし集中力も切れていて眠たくなるものだけど・・・放課後の事を考えたら僕は時間の進みがわざと遅らせてるんじゃないかと思うくらい遅かった。

どの授業も眠くなる事はなかったがどこか上の空のまま受けた。

放課後彼に何を言われるのだろうかと・・・。

「チビ!帰るぞ!」
彼はいつも昼の時のように放課後も僕を呼びに来てくれた。

「は・・・はい!」
もう昼から僕の頭は彼のことでいっぱいで授業が終わった直後にすでに帰る準備は終わっていた。
その荷物を全部手早く持つと入り口に立っている彼の元に急いだ。

彼の家に行くまでのあいだずっと無言だった。
僕は彼の側にいられる事が嬉しくてでも恥ずかしくてでもこれから何があるんだろうって不安もあって・・・ずっと下を向いたままだったけれどドキドキしっぱなしだった。

「ほら、入れよ」
「あ、うん」
前回僕が突っ立ったままなかなか入ろうとしなかったのを覚えていたのか彼は鍵を開けたらすぐに僕に中に入るように促してきた。

でも彼の部屋に入れるっていう事にどきどきしっぱなしの僕はかちこちに緊張しながらドアをくぐった。

後ろで自然にドアが閉まる音を聞いたときにはすでに彼は玄関の中に靴を脱いで入りすたすたとリビングに向かっていた。

僕も大慌てで靴を脱いでそろえたら彼の後を追った。

「荷物はそこらへんに置いてソファにでも座ってろ」
彼はそのままリビングからキッチンの方に向かっていってしまった。

そこらへんといっても彼のにおいに包まれた空間は僕が自由に動いていい場所とは思えなくて所在なく立ち尽くしておろおろするしかなかった。

このままだとまた彼から怒られてしまう。

荷物をそこらへんに置くことも、図々しくソファに座る事もできずにソファ前の床に荷物を膝に抱えたまま座ることにした。

「何やってんだ、お前」
彼は飲み物を持ってきてくれたようだった。

割とふたりっきりになったら即物的に交わることばかりが多かったのに・・・飲み物を持ってきてくれた彼に呆気にとられてしまい、反応が遅れてしまった。

「え・・・え〜と」
僕もこの体勢の理由をうまく表現できるはずもなく口ごもって下を向くしかなかった。

「ったく・・・」
「あっ」
彼はひょいっと僕の鞄をとるとソファの横に置いてしまった。

「・・・・・・ぇ」
そしてまた僕までも荷物のように腰あたりを抱えてどさっとソファに座らせた。

口を挟む暇もなくとんとん拍子に進められてしまった。


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