◇ 暖かい氷の瞳  

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それから十数年が過ぎた。二人の生活の基本はあの洞窟を完璧に屋敷に変えてしまいそこを新居とした。


あまりの立派さに柳が恐縮してしまったので中の調度品は上質ながらもシンプルなものをそろえた。リィズウェル自身に拘りが無かったので柳の好みに合わせることを楽しみとしていた。


「柳、私はある国の神子出現の祝いに行かなくてはならなくなった」
「そうなの?じゃぁ僕は留守番してた方がいいのかな?」
ある日の夜、ゆっくりとリィズウェルの晩酌に柳が付き合っている時に切り出された。


リィズウェルと柳はたびたび時空を超えた旅行をしていた。柳にとっては言葉が通じない世界どころか生態すらまったく分からなかったがリィズウェルと一緒にいる事で多少の恐怖心はあるが不安はそんなになかった。リィズウェルと一緒なら大丈夫だと根深い所で感じているからだろう。


「いや…長老直々に一緒に行くようにと言われたのだ。…まぁ滞在が長くなりそうだから連れて行くつもりではあったのだが…」
「長老様が??なぜ?」
「私にも分からないが…以前会った時に柳を気に入ってしまわれたのかもしれないな…」
一度だけではあるが柳は長老に会っていた。


リィズウェルに連れられて会ったのだ。緊張で何を話したのかも分からないくらいだったが始終、穏やかに話しかけてくれるので後半の方は落ち着く事ができていたように思う。一番なんとなく恥ずかしかったのが長老の伴侶の人がお菓子を帰り際にくれた事だ。甘いものはわりと好きなのでそれを気づかれてしまったのかもしれない。


「でもいいよ…リィズと一緒ならどこでも」
「可愛いことを…私のナギ……柳…」
真名を伴侶以外に伝えてはいけないという事でリィズウェルは柳の事を人前では『倉本』の方か今のように『ナギ』と呼んでいた。二人は静かに口付けを交わした。




「…ジェンキンス親子とライジットの元に…行きたいと思うんだ…」
柳は大事そうに両手に綺麗な模様の袋を抱えていた。神子の祝いにリィズウェルと一緒に行った国でもらった物だ。


「…柳…」
「…ずっと…ずっと…決心が付かなかったんだ……僕は…彼らの元に今行きたいと思う」
柳がずっと彼の国の事を気にしながらもリィズウェルに何も言ってこなかったのでずっと触れないできた。


暗い瞳を気にしながら…だが…今の柳の赤い瞳はどこまでも澄んでいて何よりも綺麗だとリィズウェルは思った。在りし日の姿を取り戻した柳はなによりも誰よりも美しいと思った。


「……柳がそう望むのであれば行こう。……ただ…彼の国は…柳がいた時とは比べ物にならないくらい…荒んだ世界になっている…それでも行くかい?」
「…………うん……だから行くんだ……お礼も言ってないしね」
そういって柳は強い決心を含んだ瞳を笑みの形に変えた。共に過ごした時間は短いと思うがそれでも見る度に一瞬の間に柳は美しく強くなっていると思う。それを自分のすぐそばでつぶさに見る事のできる幸福にリィズウェルは感謝した。


「それは持っていくのか?」
「もちろん。…これはその為にあると思えるんだ…」
「命名はそのままでいいのか?」
「これくらい小恥ずかしい位がいいんだって言ってたしね。僕もそう思う」
「まぁ…それでいいならいいだろう…さぁ…行こうか。どこにいてもどこに行っても私は付いていくよ…」
柳の額に軽い口付けをリィズウェルは落とした。


「ありがとう…」
その言葉が言い終わるか言い終わらないか位には二人の姿はその場から忽然と消えていた。




僕の体が不完全である事は誰よりも僕自身が分かっていた。
同情して欲しいわけではない。
嫌悪しないで欲しいなんて言わない…そう思っていた。


リィズウェルに会ってあの頃よりもずっとわがままになったと思う。
でも…そうさせてくれたのはリィズウェルだから…
今の僕があるのはリィズウェルのおかげだから…



だから………僕は……僕の事を好きになれたよ。



END

 
◇ ◇ ◆あとがき◆ ◇ ◇
ようやく完結しました。最後までお付き合いありがとうございました。
最初15万HITとして連載開始したのですが…時間が思ったよりもかかりました…。
でも私は二人の事が好きでこうして形に出来た事を嬉しく思います。

さて私は作品同志をリンクさせるのが大好きです。(笑)
一応暖かい〜としてはこれで完結ですが、いずれ会う事が出来ると思います。
その時はまたリィズウェルと柳を温かく見守ってあげてくださいね。
ここまで見てくださった方々本当にありがとうございました。

                                                冴

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