■ □ 幸せな村の愛の樹■ □ 

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「嫌でなければ我が家にご招待しよう。異界の客人殿」
間近で精悍な美貌に微笑まれて愛樹はドキドキした。


「あ…ごめん。名乗ってなかったね。俺の名前は幸村愛樹っていうんだ」
「ユキムラ…アイキ?」
エディセルドは愛樹の名前を声に出した。


少し困惑したよな表情をして腕の中にいる愛樹に声をかけてきた。
「…なんと呼んだらよいだろうか?全部が名前なのか?」
「あぁ…愛樹だよ。俺の名前は愛樹。そう読んで」
「そうかアイキ。いい名だ」
そして愛樹とエディセルドもその神殿を後にした。


道すがら色々な人に声をかけられていたからきっとこの人は本当に偉い人なんだなと漠然と思った。そんな人に自分を抱えさせていていいのかと思ったが、どうも風邪を引いてしまったようで…何となく体がだるい。


今まで緊張をしていて表に出ていなかったのがエディセルドの温もりに触れて一気に表面化したのだろう。


マントで全部覆われている安心感もあって愛樹はエディセルドの肩に頭を乗せて歩く振動に身を任せた。



その後、エディセルドに抱えられたまま馬に乗って彼の屋敷に付いた。マントの中で目を閉じていたので分からないが馬から下りてそれなりに歩いていたように思うのでかなり広いのだろう。


たくさん、出迎えの声も聞こえた。そしてその内の一室に連れて行かれた。そこにあるゆったりとしたソファに愛樹は体を降ろされた。


その前にエディセルドが膝を付いて彼の顔を覗き込んで声をかけた。
「アイキ」
眠ったりはしていないが意識レベルが少々低下していて反応に遅れた。


「ん…何?エディセルドさん」
「疲れている所悪いが風呂に入った方がいい。誰か手伝いの者を呼ぼう」
そう言って立ち上がろうとしたエディセルドの袖を慌てて引いた。


「大丈夫!一人で入れないほどじゃないよ。…あ〜折角の親切を…図々しいと思うんだけど…出来たら自分だけで入りたい。」
愛樹は思っていたよりもずっと切羽詰ったような声が出てしまった。


しまったなと思ったが今更取り繕う事も出来ずおずおずと袖を引っ張っていた手を離した。


その様子からエディセルドは彼が人に仕えられるのに慣れていないのだと判断した。


「そうか…この部屋は風呂に直接行ける。私が側に控えているので分からない事があればすぐに呼ぶといい」
そう言ってまたエディセルドは愛樹を抱き上げようとした。


「歩けるよ」
「すぐそこまでだ」
そういってまた戸惑う愛樹を軽がると抱えて風呂に入った。





風呂は広かった。といっても華美ではなく恐らく大きな石を削りだしたタイルの床などで落ち着いた雰囲気だった。…華が大量に浮かんでいたり、金のライオンの口からお湯が…など想像と違ってちょっとほっとした。


まぁ見た感じエディセルドがそんなに悪趣味な事をしそうにないよなと愛樹は思いながら、髪にべっとり付いたスプレーをさっき説明してもらったこっちの世界での石けんのような物にあたる液状のもので洗い流して、湯船で温まって上がった。



上がった所にはタオルと少し大きめのシャツとズボンがあった。シンプルな物だが高級そうだな…と思いつつ袖を通してその場所を後にした。


「エディセルドさん。ありがとう」
そう言って入り口に付近でこちらに背を向けているエディセルドに声をかけた。するとすぐに返事が返ってきてこちらを振り向いた。彼もさっきの軍服から着替えたようだ。


「あぁ、上がったか………っ」
こちらを向くなり彼は大きく目を見開いて愛樹を凝視している。なにか…変だったかな…と思って頭を触ったり自分の体をぐるっと見回してみたが…

特に変な所は無い。服も特にへんな着方をしているわけでもないよな?と愛樹は少しずれて考えていた。



もちろんエディセルドが驚いたのはそんな所ではない。見たことも無いような完全に漆黒の髪に同じ色の双眸。


白い肌は湯上りだからしっとりとしていてほのかに薄紅い。小さな唇も小さな手足もほんのり色付いて愛らしい。



「……その姿であの王の前に出なくて…本当によかった…」
そう愛樹に聞こえないような声でぼそぼそと呟いてそれを見て愛樹は小首を傾げた。



その姿をみてエディセルドはまたため息を付いた。

 

 

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