■ □ ■幸せな村の愛の樹■ □ ■ ・・5・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あらためて話がある」
そういってエディセルドはソファに座った愛樹に目線を合わせるようにひざまずいた。
「こちらの勝手でアイキをこの世界へと召喚してしまった。今から言う事は、王の言葉を受け入れるつもりでいうわけではない。私の意思だという事を納得してほしい」
ちょっとの間にもう気に入ってしまったエディセルドのネービーブルーの瞳は真剣で真摯な光で溢れていた。
だから素直に信じる事ができた。
「うん」
「私の伴侶になる気はないか?」
そういってエディセルドは生涯の伴侶となる事を持ち出してきた。
「!」
愛樹は言葉も無く息を飲み込んだ。
そう言ってエディセルドは愛樹を守ってくれようとしている。
彼の気持ちはもちろん嬉しい。
見知らぬ世界でこんなに誠実に優しくしてもらえるとは思っていなかったから尚更だ。
だが伴侶となっては別だ。
「だっダメだよ!俺なんか伴侶にしたらもしこれから先にエディセルドさんに本当に誰よりも好きな人が出来たらどうするの!?」
そう言って愛樹は必死に首を横に振った。
その様子を見てエディセルドは微かに笑みを見せて続けた。
「元々私は誰とも契るつもりはなかったのだ。生涯独身のつもりでいたが…伴侶をもたないのは情けないと最近やたらと回りがうるさくてな。私を助けるつもりでお願いできないだろうか?」
そう言ってエディセルドは右手を愛樹の頬に滑らせた。
その触り心地のいい肌にずっと触れていたいような気がする。さっき愛樹に言ったのは本当の事でもあり、誇張した表現でもあった。確かに伴侶も持たないというのは良くないと思われているがエディセルドは成人する前から誰であっても、ともに生きるつもりは無いと生涯独身を宣言していたので面と向かって伴侶をという事を進言してくるものはいなかった。
友人の中には冗談交じりで勧めてくるものもいたが笑って受け流してきていた。まぁこれから伴侶を娶った事で周りがうるさくなるのは言わずもがなだろう。
「ホントに?」
逡巡しているのだろう。愛樹の瞳は揺れている。そこにたたみかける様にエディセルドは笑顔を向けながら答えた。
「もちろんだ」
少し目を伏せて愛樹は沈黙をしたあと少し挙動不審な様子を見せた。それをエディセルドは静かに待ち続けた。
やがて少し頬を染めながら恐る恐る目を上げてエディセルドを見た。
「…なんて言ったらいいのかな…こういう時……」
あまりにも心もとない表情で言うものだからエディセルドはこの幼い異界の客人を守らなくてはと強く思った。
「私に聞いていいのか?」
くすくすと笑いながらエディセルドは言った。
「え…あ……」
愛樹は更に頬を染めて途方にくれたような表情を見せる。少しからかいが過ぎたようだ。
「私が望む返事は、はいと言う了承の言葉だけだぞ?」
「あ…あ…そうか。はい。えと…不束者ですがよろしくお願いします」
そう言って愛樹はエディセルドに対して両手をきちんと膝に乗せて頭を下げた。
「こちらこそ無骨ものだがよろしく」
そう言ってエディセルドは微かに微笑んだ。
その後エディセルドが食事を用意してくれていたので、それを食べた。いろいろな事があったのでのどを通らないと思ったがそこは配慮してくれたようでやわらかいリゾットの様なものと切った果物だった。そんなに飛び抜けた変な味ではなかったので安心して食べる事ができた。
「…少し…熱があるようだな…」
食事が終わった後にぶつっと緊張の糸が最後の細い糸まで切れてしまい、何とか座ったソファにくったりともたれていたら額に大きな手がきたのを感じた。エディセルドが触れてきたのだと感じた。
その大きな手に安堵を感じた愛樹は瞳を閉じた。他人に触られて安心できたのは何年ぶりだろうか…愛樹は微かに息を吐き出した。
「もう寝た方がいいだろう…アイキ?」
言葉は頭の中に入ってくるのだが…体が動かない。
本格的に風邪の症状が出てきている。
「ん…」
エディセルドは再び愛樹をそっと抱き上げると寝室に運んだ。
その時直に感じた体温が心地よくて無意識にそちらに頭を寄せた。
「ここで寝るといい…すまなかったな…今日はアイキに色々なものを一気に押し付けてしまったな」
そっと愛樹をベッドに降ろしながらエディセルドは小声で話しかけた。
その時には愛樹は意識がすっと途切れてしまうのを感じた。
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