■ □ 幸せな村の愛の樹■ □ 

・・8・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おはようございます。お待ちしていました、シェティー様。…そちらの方はなんとお呼びしたらよいでしょうか?」

そう言ってここの神殿の中で一番偉いであろうセンジハー自身が出迎えてくれた。


待っていたという言葉からエディセルドが予め話を通していたのだという事が分かった。愛樹はうかがうようにエディセルドを見た。

彼が微かに頷いたのを見て名乗った。
「俺は幸村 愛樹といいます」
「姓はなんとおっしゃいますか?」
センジハーは穏やかに聞き返した。
「幸村です」
「ではユキムラ様にシェティー様こちらに…」





「こちらが儀式の部屋になります」
センジハーは神殿の中を案内して一つの部屋の前で止まって説明をしてくれた。


愛樹には立派ではあるが本当に神殿の中のなんの変哲もない一つの部屋の入口にしか見えなかった。


その扉の中央に立ちセンジハーは愛樹とエディセルドに向き直った。
「ユキムラ様契りの儀に異論はありませんか?」

そう問われても愛樹は迷いなく返答した。
「はい」

「シェティー様にも異論はありませんか」
「もちろんだ」

「それは重畳。これで扉は開きます。ユキムラ様はご存知ないですよね…ここには契りに納得していない方は入る事ができないのです。入るのを拒む人の前では扉は反応しません」
センジハーはそこまで言うと笑顔を見せて小さく「失礼」というと後ろを向いて扉を両手で開けた。



「わぁ…」
愛樹は思わず感嘆の溜息をついてしまった。



その部屋の奥半分の床にはうっすらと魔法陣がありその中央に祭壇と聖石とよばれる薄青い石がある。大きさ的にはちょうどバスケットボールぐらいだろうか割と大きめの石だった。それがまるで息づいているようにチラチラと光を零していた。時々光は具現化して石から跳ねるように出ては下に落ちながら消えていた。まるで石が歓喜しているかのようだった。



「私が聞いた話の石の様子と少し違うな…」
エディセルドも溜息を付くように部屋の奥にある聖石を見つめた。

「え?エディセルドさんもしらなかったの?」
エディセルドのセリフに驚いて愛樹は不思議そうに訪ねた。


「もちろんだ。ここには契りを交わす二人と限られた神官しか入れない。それを交わした二人の話を聞くぐらいでしか中の様子を知る事が出来ないんだよ」
「…見慣れている私ですが…こんなに聖石が光を触れる前から発するのは初めてです。もしかしたらお二人の相性がかなりいいのかもしれませんね」
センジハーすらびっくりした表情を隠す事ができずに感嘆の言葉をついた。



「あまりに感動してしまって…お待たせしてしまいましたね。どうぞお二方こちらに来て下さい」
苦笑しながらセンジハーは二人を促して先頭に立って聖石の方へと足を進めた。


エディセルドと愛樹は二人で並ぶようにしてセンジハーの後をついていった。祭壇の前につくとセンジハーはこちらに向き直った。エディセルドと愛樹は二人とも祭壇より一段下の位置に二人並んで立った。


そして儀式は三人のみで静かに始められた。


「汝、シェティーよ、ユキムラを生涯の伴侶とする事を誓うか?」

「誓います」



センジハーの厳かな声に真摯な声でエディセルドは答えた。



「汝ユキムラよ、シェティーといついかなる時も共にある事を誓うか?」

「はい、誓います」
首を軽く縦に振りセンジハーの瞳を見つめた。



かれのブルーグレーの瞳が優しく笑みを浮かべる。
「それでは聖石の前へ…」
センジハーは端に避けたので、愛樹は戸惑いながらエディセルドを見上げた。すると小さな笑みを見せたので安心して一つ上の段に上り祭壇の前へと二人は立った。
「左手を聖石へ…」
センジハーの指示に従い二つの左手が聖石へとそっと伸ばされ触れた。




「「「!!!!」」」





すると石はまるでその時を待っていたように激しく具現化した光をあたりにまきちらせながら虹色に輝いた。勢いがある光にいたっては天井にぶつかってはその光をまるで雨のように砕け散らせながら落ちていった。光がおさまったのは恐らくそんなに長い時間ではなかっただろう。一分にも満たない時間だったが三人に強烈な印象をつけた。




いち早く我に返ったのはセンジハーだった。
「……え〜それでは証の左手をこちらに…」
呆けていた愛樹と驚きを隠せないエディセルドはその声に我に返った。


愛樹の反応が少し遅かったがエディセルドに促されてなんとか左手をセンジハーに出した。その手を両手で受け止めた彼は二人の左手を見つめた。


愛樹がそこを見ると、まるで刺青のように左手の薬指を中心に手首の辺りまで模様が出来ていた。指の辺りが群青色で手首にかけて鮮やかに水色へとグラデーションになっていた。


「ほぅ…これは見事な…ここに証があることをセンジハーが見届けた。ユキムラ様、これからはアイキ・ユキムラ・シェティーと名乗ると良いでしょう。…年上の方の姓を最後に名乗るのが伴侶の儀式の一つなのです。…これで儀式は終了です。お二人ともお疲れ様でした」
そういってセンジハーは笑顔を見せて二人の手をそっと離した。




愛樹は離された左手を目の前に持ってきて見つめた。
「すっごい綺麗。この色ってなかなか出せるものじゃないよね…模様も細かくて…わぁ…もうすごいって言葉しか出ないよ…」
そういって手をかざしたまま横に居るエディセルドを見上げた。


「…私は何人も伴侶の証を見たが…こんなグラデーションは見たことが無い…」
そういってエディセルドは自分の模様と愛樹の模様を見比べていた。


「そうなの?わ!エディセルドさんのって大きさが違うけど俺と同じ模様だ!」
愛樹は自分の手を下ろしてエディセルドの手を見つめた。


「伴侶の証は二人とも手によって大きさが違う事があるが、模様は一緒だ。しかしその模様は二人に一つのみ。同じ模様はないんだ」
そういってエディセルドは自分の手をしっかり握って見ている、愛樹の頭を見下ろした。



「…その通りです。私もここまで鮮やかなグラデーションを見た事がありません。二人にとって吉兆に違いありません」
センジハーは二人を温かい目で見ながら言った。



愛樹はしばらく自分の手とエディセルドの手を見比べていた。そして決心したようにセンジハーに言った。



「センジハーさん…俺の言葉の魔法を解除できませんか?」

 

 

 *