■ □ 幸せな村の愛の樹■ □ 

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「さて…アイキの部屋はこのままここでいいな」
エディセルドが最初に愛樹を通したのは自分の部屋の隣つまり屋敷の主の伴侶が住む為に用意された部屋だった。


もともと生涯使うつもりもなかったので、あまり物を入れていなかった。屋敷の侍従達によっていつでも使えるように整備してあったのは不幸中の幸いか。


掃除もしないで締め切ってもいいと思っていたエディセルドだが「この屋敷にチリひとつ落としません!」という侍従頭からの一喝により埃まみれにして罪のない部屋を痛ませるよりは…と承諾していた。今となっては侍従頭の職務に忠実な所に感謝である。




「何かいるものがあればその都度入れていけばいいな」
エディセルドはそう納得して不思議そうな表情で自分を見上げている愛樹を振り返って苦笑した。


振り返ったエディセルドを見て少し不安そうにしていた顔に小さい笑顔が浮かんだのだ。頭では愛樹がこちらの言葉を今は解さなくなっているのを解っていたが、愛樹を不安にさせてしまっていた。


「とにかく座ろうか、アイキ」
そうエディセルドは話し身振りで座るように愛樹を促した。


「とにゅ、かすわりょいか?」
愛樹は耳で聞いたエディセルド言葉を真似て話しをしたが…まだやはり言葉になっていなかった。


「もう言葉の練習をしているのか…」
エディセルドは感心したように愛樹の顔を見た。正直、言葉の練習を始めるのは授業としてきちんと準備をしてから開始しようと思っていたのだか…愛樹はもうエディセルドが話す日常会話からも知識を得ようとしているのだと分かった。


「と・に・か・く す・わ・ろ・う・かだ。言えるか?」
愛樹にも分かりやすいように言葉を切りつつゆっくりと発音してみせた。
「とにぃかく すわろうか?」
愛樹はエディセルドの口元をしっかり見て言葉をゆっくりと繰り返した。


「そうだ。発音はなかなか出来るな」
「しょうだ」
そうしてその後の休日の時間はほとんど愛樹とエディセルドの言葉の授業として過ぎていった。





その翌日にはエディセルドは侍従頭に話を通して愛樹に侍従をつける事にした。愛樹にいきなり青年をつけるのは不安を誘うだろうという事になり、少年を侍従としてつける事になった。


「愛樹…この子がお前の世話をする事になった」
言葉が分からない愛樹はエディセルドに連れられている少年とエディセルドを交互に見比べた。


「はじめまして!!ココリと申します!!」
12〜3歳くらいの少年だろうか殆ど愛樹と身長が変わらない。金茶の髪に琥珀色の瞳をしている。よく話している内容は分からないが、昨日エディセルドとした言葉の中にあった言葉を少年から聞き取ったので愛樹も言葉を返した。


「はじゅめま、して」
そういいながら愛樹は頭を下げた。それに慌てたのはココリだったがエディセルドはそれをココリの肩に手を置く事で抑えた。オロオロしながらも愛樹の言葉を聴いてまだここに慣れていないのだろうと取りあえずの納得だけをした。



「愛樹…ココリだ。ココリ」
「ここり」
「そうだ。この子がお・せ・わをしてくれる」
「おしぇわ」
「言葉もゆっくりでいい。この子と私で教えていこう」
そういってこの日は愛樹とエディセルド、新しくココリが加わっての朝食となった。


朝食の間は今までエディセルドが世話をしてくれていたがこの時はココリがくるくると良く動いて廻っていた。それをみてようやく愛樹は彼が何者であるのかを理解した。
{ココリはいわゆる侍女とか小姓とかなんだ…僕のお世話をしてくれるのか…}


その後、エディセルドは仕事があるということでそのまま愛樹の自室を出て行った。エディセルドは愛樹の為に用意した子ども向けの絵本のような物語を数冊渡していった。



その日はココリと愛樹で一つ一つ言葉をゆっくりと勉強した。



夜にエディセルドが帰ってくると覚えたての言葉を言ったりしながらまた愛樹はエディセルドと勉強をした。夢中になり過ぎてそのまま机の所で眠って、抱えて移動してくれたエディセルドの服を離さないでそのまま一緒に眠ってしまうという事も何度もあった。


愛樹はエディセルドと一緒に眠るのを密かに気に入っているが、起きた時にはいつもびっくりしてしまった。エディセルドも愛樹と眠る時は良く眠れるので別に服を握られていない時でも一緒に眠ったりした。

毎朝、ココリと愛樹。

毎晩、愛樹と、エディセルドの授業は続いた。

 

 

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