@  @愛したい、必要とされたい、可愛がりたい  

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僕は槙村達と別れた後は部活にも入っていないので、そのまま道具を片付けて鞄に入れて教室を後にした。

家にはもう虎太朗がいるだろうか?

やっぱり不思議な気がする。

自分の家に誰かが待っているなんて…去年まで当たり前の事だったのに…独りでいる事になれてしまったからだろうか…嬉しいと思う、でもなんとなく複雑な気もする。

もしかしたら虎太朗の気が変わってしまい、家には誰もいないかもしれない。

心の片隅に虎太朗の存在に対する不安があるのは確かだ。

でも不思議と不信感はない。

ただあまり期待をしすぎると後で裏切られてしまった時に立ち直れないから無意識に防波堤を立てているのかもしれない。




「あいつ先輩に捨てられたってね?」

「いい気味。先輩が卒業した後まで彼氏面してしつこいなんてストーカーだよ。全然普通の顔でしかないくせして」

後ろから小声ではあるが隠すつもりなど無く由良に聞かせるように声がかかる。
知らない声だけどその内容が気になって振り向いた。
恐らく同学年の人だと思う。
僕は交友関係が狭い事もありしっかり名前も知らない、ちょっと顔に見覚えあるかな?程度の人だった。

でも言葉の内容を聞く限りもうすごく遠い話しのように感じるが昨日別れた彼について知っている人間だという事はわかった。

振り向くと彼らは嫌な感じの笑みを浮かべている。嘲笑されているのだと思うが僕にとってはもう遠い彼方の事のように気にならなかった。

せっかくの綺麗な顔立ちを醜く歪ませて笑っているがその映像もまるで分厚い水の層に遮られているかのように遠く見えた。


「そうだね…」
ぼそりと呟いただけだったのだが彼らには届いたらしい。

クスクスと馬鹿にするような笑い声が聞こえてきたが僕はそれを気にする事無く進んだ。

僕は先輩の存在を忘れてしまっていたくらいだからもう会っても意味がないという事だったが彼らは自分の身分不相応に僕が萎れているととったらしい。

まぁそれはそれで都合がいいので訂正しないが…彼らはもう一度僕を罵倒してから立ち去っていった。

僕はそれを気にする事無く荷物を持って帰路についた。

まぁこんな修羅場…放課後の誰もいない所でよかったな…もし見られていたら面倒な事になるし…と少しズレた事を考えながら…。




ガチッ
「あ…」
ドアには鍵がかかっていた。

もしかしたら虎太朗は気が変わってここに来る事をやめてしまったのかもしれない。
そうだろうな…二日酔いくらいしてそうな位昨日の虎太朗はお酒臭かったんだし。

「ただいま〜」
僕はいつもの習慣で誰もいないだろう室内に向かって挨拶をした。でも予想と違っていてリビングからのドアを虎太朗が開けてのそのそと出てきた。

「こた。いたんだね」
思わず笑顔+嬉しさが声に滲んでしまったのは許してもらおう。

「ん」
虎太朗は僕に近付くと腋の下に手を入れてきた。
「こた?…うわっ!!」

虎太朗はそのまま腕力で僕を抱え上げると子ども抱きをしてリビングにのそのそと戻って行った。
「こた?」
「ん」
彼は短く頷くと僕をそのままソファに降ろして座らせ自分は床に座った。


「ん」
虎太朗は僕のお腹に顔を埋めるようにして腰に抱き着いてきた。これは彼なりのおかえりの挨拶なのだろうか?

なんだか大きな身体で甘えてくる所が本当に大型犬みたいでかわいかった。

「ただいま、こた」
僕のお腹に埋まっている頭を優しく撫でてあげる。

すると虎太朗はくたっと力を抜いて僕に体重を預けてきた。でもちゃんと力加減しているみたいで心地よい重さしか感じなかった。

「着替えてくるね」
虎太朗の頭を名残おしく思いながら優しく撫でる。

虎太朗は最後にぎゅうっと僕のお腹に抱き着くと離れた。そのまま僕は部屋に向かった。その後を虎太朗は静かに付いて来る。

「待っていてね」
そう声をかけてから僕はクローゼットから服を出してそれをベッドに置いた。

それから制服を脱いでいく。制服のブレザーとズボンはハンガーにかけてクローゼットに入れ、ジーパンをはいた。シャツを脱いでタンクトップのみになる。

「……こた?」
後ろに虎太朗が立っていて脱いだシャツを置いた時にすっと腕が伸びてきて僕の体に回された。


そのまま虎太朗は僕の首筋に顔を埋めてきた。

 *