● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「本当に神子は黒髪なのだなっ……腕を負傷されている」
「救護はおらんかっ」


「はっ」
白衣を纏った青年が手早く神子の怪我を丁寧に診察した。


「……幸い骨は折れていないようです。打撲もありますが…消毒をして止血し安静にしておけば問題ないと思われます」


「そうか…我が国もこの方がいらっしゃったからには安泰だ」
その団体のリーダーっぽい恰幅のいい壮年の男は部下に綺麗な毛布を持って来させて、神子と呼ばれているその少年を毛布で包んで抱き上げた。


「!…なんと軽いのだ…天上に近きものはこのように軽いものなのか…陛下に早馬を出せ!喜ばれるぞ」

「神子は愛するものが出来る所にしか召喚しないと聞く。神子は我が王を愛され繁栄をきっと約束して下さる!」
その中世ヨーロッパ集団はノリにノリまくっていた。

倒れていた少年の怪我がたいした事なくて安堵している葵の事に気がつきもせずに…



「ん〜……」
「神子っ……目を覚まされたのですか?」
壮年の腕の中で倒れていた少年は目を覚ましたようだった。


「…あ?………ぁ……ここは…どこなのでしょう…」
倒れていた少年が目をあけか細い声を出すのが聞こえた。それにまた壮年の男性は歓喜の声を上げる。



「神子…我々の言葉を解する事ができるのですね」
「神子はあらゆる言語を解すというのは真の事だったのですね」
「黒髪に黒目…そして…言語を解するなんて…間違いない神子様だっ」
その場が歓喜に溢れていくのが分かった。


「…なんだこいつは…」
そのうち一人がようやく葵に気が付いた。

「なんでこんな所に一般人がいるんだ?」
「大方死の荒野と分かっていながらも食料がないか探しにきていたんだろうよ」

「ったく…死の荒野だった前みたいな所に何があるっていうんだよ…」
「石を削って日用品を作るとこもあるからな」

「あぁ…なるほど。おい、生きているか〜」
そう言って一人が葵の二の腕を掴んで引っ張り上げた。


身体が疲弊してうまく力が入らないものだから掴まれた二の腕に全ての体重がかかってしまって葵は呻いた。



「何だよ。お前食ってねぇんじゃねぇの。ほっそい腕」
葵は理不尽だな〜と思ったが口に出す体力はなかった。

神子なら天上人は軽いという解釈になり一般人は貧乏で食べてないとなるんだと思った。

「なにやってんだっ!やめろ」
少し離れている場所から走ってくる足音がしてそういいながら、身体を抱き上げてくれる感触があった。


「なんだよ。怒るなってジラルド。ちょっとふざけただけじゃないか」
「ふざけただけだと?この腕を見てみろ」
そういってジラルドと呼ばれた青年は葵の服の袖をまくってみせた。
{うわ…情けないな…ちょっと掴まれただけなのに…}


「げっ」
二の腕にははっきりと指の跡が赤黒く残っていた。相手の力が強かった事と思いの他に葵が疲弊していて全体重がそこにかかってしまった結果だった。


「…ごめん…少し悪ノリしすぎた…」
「ペル、俺じゃなくてこの少年に謝れよ」
「ごめんな。ひどい事をした」
そう言ってペルと言われた青年は大柄な身体を折り曲げるようにして葵に謝った。



「だ…っじょ…ぶ」
声がうまく出ないがなんとか声を出して答えた。


「ったく…神子が現れて下さって嬉しい気持ちは分かるが…」
「面目ない…」
ペルと呼ばれた人間はそう悪い人間ではないようだ。



「…私が現れたばかりにその者は怪我をしたのですか…」
壮年の腕にいる神子がこちらに声をかけてきた。


「…っジラルドっ!!!滅多な事を言うんじゃないっ」
壮年は慌てたように葵を抱き起こしているジラルドを窘めた。


「申し訳ありません。ガスター隊長」
葵は神子と呼ばれた青年の目を見た。やはり髪と一緒で黒…とは言い難い。


よく言って焦げ茶色といった所だろうか…じーって見つめていると神子は慌てたように自分を抱き上げている隊長に声をかけた。


「そう咎めないであげてください」
「なんと…神子はなんとお優しいお方なのだ…」
殆ど感涙しそうな感じでガスター隊長はうち震えていた。そしてガスター隊長はジラルドに命令を下した。



「その者はお前が面倒をみてやりなさい」
そういって背を向けると自分の馬の所に戻っていった。

 

 

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