● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「悪かったな…ちょっと皆浮かれているんだ…」
ジラルドは申し訳なさそうに自分の上着を脱いで葵に着せてくれた。



「変わった服を着ているな…民族衣装か?どこに住んでいる?連れて帰ってやろう」
ジラルドはそう言ってくれるが…葵には答えようがない。帰り道なんかわからないのだから…


「僕…帰るとこ…ろ…ない…」


「マジか?!」
まだ側にいたペルの方が大きな声を出した。


「ペル!」
「悪い…」
申し訳なさそうな顔で大柄な身体を縮めてペルはジラルドを見上げているもしかしたらペルはジラルドより大柄だが年下か地位が下なのかもしれない。



「そうか…まぁ色々今の世界はあるからな。そうだな…俺の所に来るか?」
「ジラルド?いいのか」
ペルが驚きを隠せずにジラルドの顔を見つめた。
「どういう意味だよ?」


ペルが驚くのも仕方が無い。ジラルドは本命といえる人を作らない男だ。だから今まで家に友人以外の人を入れたりしていない。友人も限られた人しか入れない。


男も女も性別を問わない国柄であるからジラルドもそれなりの経験をしているが…友人が押しかけてくる以外自分から自宅に入れたりしない人だったのだ。これでは驚くなという方がおかしい。


「い…いや…お前がいいなら、俺が口出しする事じゃないし…」
もごもごと口の中で呟くようにペルは話した。


その様子がおかしくて思わず葵は小さく笑ったが、もともとあまり表情を出す事を得意としていなかったので二人に知られる事はなかった。



「しかし…随分体重が軽いな…それにかなり疲弊している…」
ジラルドは自分の上着が大きすぎてほとんど服に埋もれてしまいそうな葵を抱き上げて呟やいた。


「まともにしゃべられないみたいだしな」
ペルもさすがにアザが出来るまで腕を握ってしまった相手がしゃべる事がまともにできないほど疲れている事に本当に申し訳なく思っているようで完全に眉が下がってしまってる。


さっきの行為は本当に悪意があるものではなかったのだ。もともと軍人と呼べる人間達ばかりのなかにいたので力加減が出来なかったというのが正解だろう。



「…あれだけ枯れきった荒野をここまで蘇らせた神子の側にいたのだから…その神力の余波を受けたのかもしれないな…」
「言われてみれば…そうかもな…」
「とにかく…怪我はしていないとはいえ、ここまで疲弊しきっているなら早く休ませてやらないとな…」
そう言ってジラルドは身を翻して自分の馬の所まで戻って行った。



「あの坊主ってただもんじゃないかもな…」
ペルは呆然とジラルドの天変地異が起こりそうな言葉の数々に驚くばかりだった。


ジラルドはそんな失礼な事を考えている同僚兼友人を差し置いて自分の馬に跨がり自分の前に葵を横抱きに乗せてなにやら話しかけていた。ペルはそれに続くように自身の馬の元に戻るべく足を動かした。


「名前を尋ねていなかったな…私はジラルドという」
「夏…木…」
葵は反射的に自分の苗字を名乗ってしまった。


相手は恐らくファーストネームを言っているのだろうが…思わず苗字を言ってしまったのだ。


「ナツキ?…響きがいいな。よくあっている」
そう言ってジラルドは笑って馬を進めた。


疲れている葵を気遣っての歩みだったので葵にとっては慣れない馬の上だったがあまり不快な思いをする事なく移動中を過ごす事ができた。

 

 

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