● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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結構長い時間馬で歩いた後に馬からジラルドに葵は抱いて降ろされ、そのまま直帰を許されたジラルドとともにジラルド宅に行った。



ジラルドの住んでいる所は二階建ての一軒家だった。長方形を縦にした作りで同じような家が横に前に後ろにズラリと並んでいる。そんなに広い感じでは無いが、男の一人暮しなら充分な広さだろう。

中に入るとすぐにジラルドは螺旋階段で二階に上がった。階段を上がって右奥の壁にベッドがある。その真向かいにはお風呂場があった。そのお風呂場の隣にもう一つベッドがある。そこに葵は降ろされた。



「友人が泊まりに来た時用に用意しておいてよかったな…」
ジラルドは風呂場で熱いお湯でタオルを絞ってクローゼットから自分のシャツを出した。
「動けるか?」
「ん…」
葵は何とか身体を起こそうとするが全く体に力らしい力が入らなくてベッドにまた舞い戻ってしまった。



「……む…り…」
「…そうか…」
ジラルドはそういうと葵を手早く裸にして拭いてやり服を着せた。そして横にすると布団をかけてやった。


「とにかく寝ろ。どのみちなんも食えないだろ?」
葵は微かに頷く。


「起きたらすぐなんか食えるように用意してやるからねとけ」
そう言って部屋のランプを消されると葵の意識は闇の中に吸い込まれていった。




それから二日間、まともに葵は起き上がる事もままならなかった。その間中ジラルドが食べ物…といっても食べる気力もないぐらいだったので果物を少量とあとは水を飲ませてくれたり、着替えさせてくれたり、汗を拭いてくれたりと細々とした世話をしてくれた。


三日目の朝は自分でぱっと目が覚めて多少動けるようになった。それを見たジラルドは少し安堵したような表情を見せた。



「やっと具合がよくなった所悪いが俺は明日、早朝に出るからな」
「大丈夫。ありがとう」
夜そういったやり取りがあった翌日の朝葵が起きたらジラルドの宣言通り家の中は静かだった。向かいのベッドもすでにもぬけの殻だった。


階段を降りて行くとテーブルにお金が置いてあった。隣にはカード型のキーがある。メモもなにもなかったのでちょっと葵は戸惑った。



「なんか買って食べろって事かな…」
葵は逡巡した後キッチンらしき場所に向かった。流しもあるしコンロもある。


冷蔵庫らしき大きな棚?箱??もある。…今の自分の状況を葵は寝込んでいる間色々考えていたが…確か結論は異世界に来たという事で落ち着いたが…これは自分のいた世界と物があまりかわらない…。



「…やっぱり冷蔵庫だ…」
中には殆ど物がなく入っているのは少量の飲み物と水。干からびた果物などだった。しかし驚いたのはひんやりとした空気がそこから流れている事だ。

コンロは中心によく見るとちっちゃいビー玉のような赤い宝石が埋め込まれている。

「なんだろ?」
何となく触ってみようとしたがザワッと何か不快な感覚が背筋を上がって来たので流しの下の棚にあった鍋を上に置いてみた。


「わっ…すごい…」
よくみると赤い宝石から青い炎が上がっていた。


「触ったりしなくてよかった…」
鍋を外して取りあえず材料がない事には何も始まらないのでテーブルにあったお金を半分だけ持った。



正直ここの通貨が解らないので大金だったりしたら…と思って半分だけ失敬したのだ。


{万が一足らなかったら取りに帰ってまた買い物に行けばいいもんね}
そう思って葵は初めての異世界の市場へと向かった。


まず市場に行くにはこの恐らく兵士達の住まいから出なくてはいけない。建物を振り返ってジラルドの家番号を覚えた。
{115か…}



二階から見えていた景色だけをたよりに歩き始めた。迷ったりしないかと心配だったが何も迷う事もなくするすると進む事ができた。



まるでずっと知っている馴染んだ土地のように。

 

 

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