● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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{俺が側にいたんじゃナツキも気疲れするだろうからと思っていたが……早く帰って来てやればよかったな…}
ジラルドは正直、葵に対してどう接していけばいいのかわからなくて友人に飲みに誘われた事もあり、それに便乗して帰りを遅くしたのだ。


ぎりぎりまで飲み屋にいて、そろそろ寝入っているだろうと予測を付けて帰って来たのに…葵は起きて待っていたのだ。

しかも夕食まで用意して。そこまで葵がしてくれていると分かっていたら早く帰って来ていたのにな…とジラルドは思っていた。



{ん〜…ヤバイかな〜…}
大きな手の平で顔を上下に擦った。ジラルドは今まで遊びと割り切った恋愛ばかりをしてきた。

もちろんそれが恋愛だなんて思っていない。

ゲームみたいなものだろうか?身体の欲求が満たされればよかった。


若い時は手当たり次第だったが…最近は落ち着いた…24歳で枯れたつもりはないがまぁ虚しいという事実には至っている。



しかし葵に対して、ジラルドは自分の心がこの子は違うと訴えているのだ。

葵は確かに綺麗に整った顔立ちをしている。2〜3年もすれば年相応の艶も交じってくるだろう。しかし現段階では…


{まだせいぜい13、4歳くらいだろ?}
そう、ジラルドには葵の容姿がそのぐらいにしか見えないのだ。実際は17歳になるのに…


{犯罪だろ?セックスどころか…恋愛のれの字も知らないだろ…}
くるくると動き回る葵の後ろ姿を見るとも無しに見つめていた。



「ジラルドさん、お待たせできたよ」
そう言って葵は温めなおした魚のスープパスタをジラルドの目の前に飲み物やサラダと一緒に出した。


「あぁ…いただきます…うまそうだな…」
ジラルドにとって初めて見る料理だったがフォークをとって息を吹き掛け冷まして口に入れた。


「ん!うまい」
そう言ってジラルドは熱いパスタをハフハフいいながらがつがつと食べ始めた。



「よかった。口に合って…あと一回だけならおかわりもあるよ」
そう言う葵も嬉しくてしかたがなかった。

{よかった…ジラルドさんおいしいって…}
結局ジラルドはおかわりのパスタもサラダも全部平らげてしまった。


「うまかった。ごちそうさま。また食べたいくらいだ」
ジラルドは本当に美味しいと思っていた。

{こんな事なら飲み屋の飯なんか食べるより、早く帰ってくればよかった…}
なんて思うくらい葵の料理に惚れ込んでしまった。


「はい、お粗末さまでした。そう言って貰えると作りがいがあるよ…ジラルドさん夕食、食べたんだよね?」
「あぁ…一応な」
ジラルドはギクッとした。気悪くしたかな?と思ったのだ。


「たくさん作ったつもりだったんだけど…これじゃ足りない?」
「そうだな…俺の胃袋ならこれの3倍あっても食べられるな」
また作ってくれるのかと思うと答える声にも力が入るジラルドだった。


「3倍かぁ…作りがいがあるね。明日も夕食用意していてもいい?」
恐る恐るといった感じで葵は聞いた。


「いいのか?俺の方からお願いしたいくらいだ」
喜々としてジラルドは答えた。本当においしかったのだ。


こんなにうまいものが食べられるなら早めに帰ってくるなんて訳はない。

 

 

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