● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「…気になった事があるんだけど…」
「何?」

「僕ここにお世話になったままでいいのかな?」
「…出ていかなくちゃいけないって心配しているのか?」
葵は小さく頷いた。

びっくりしたのはジラルドだ。葵は行く所がないと言っていたのでここで面倒見るつもり満々だったのだ。


普通なら役所の詰め所にでも連れて行ってそこで働き口など手配して貰うのが普通なのだが、ジラルドは葵を役所に報告した後、自宅に連れてきていたのだ。その時点でジラルドは葵の後見人になったも同然だったのだ。


{なんだ…俺始めっからナツキを手放すつもりなんか無かったんだな…}



「ここにはナツキが好きなだけいていいよ」
「でも…ジラルドさんにお金とか住む所全部お世話になっているし…」
「そんな事かまわないさ…きままな独り暮しだしな。気になるならまた料理を作ってくれたらいいよ。うまかったし」
そうジラルドが答えるとようやく葵はほっとした顔を見せた。


「うん、腕によりをかけて作るね」
葵は微かな笑みを見せた。ジラルドもそれをみて笑んだ。


「買い物にいったんだろ?自分の服…買わなかったのか?」
そうジラルドが気になっていたのは昨日着せたジラルドの大きな服を葵はまだ折り畳んで着ていたのだ。


「あ…うん…買ってない…」
そう言うと葵は俯いてしまった。自分の服まで買うのはよくないような気がしたのだ。というより…忘れていたといった方が正しいかもしれない。


「金足らなかったか?なら…」
またお金を出そうとしたジラルドを大慌てで葵は止めた。


「大丈夫!!まだ充分あるよ!!いっぱいあったから…一ヶ月分は食費賄えるくらいっ」
思わず力説してしまった葵だった。


「そ…そうか?取りあえずしか置いてなかったから…足りなかったら言ってくれ。また渡すから。とにかく明日でも服を買っておいで」
葵はこくこくと頷いた。



{あれで一ヶ月分養えるって…田舎から来た子なのかもな…}
ジラルドはそう感じた。

ジラルドは騎士達の中で最上位に近い部類に入るのでかなり給与がいい。

だから置いて行った金額は2〜3日分のつもりだったのだから無理もないのかもしれなかった。


「うんわかった。ジラルドさんお風呂どうぞ。さっき帰って来た時にお湯入れておいたから」
「俺は後でいいよ。先にナツキが入るといい」
「でも…ジラルドさん仕事して帰ってきているのに…」


「今しておく事があるからいいんだよ。先に入るといい」
「ん…わかった…」
「あぁ…寝る時はこれを着るといい。俺のだから大きいが…ないよりいいだろう」
そういってジラルドは自分の寝る時のシャツを手に取って渡した。


「ありがとう。じゃあ先に入ってくるね」
「ゆっくり入れよ」
そうジラルドに声をかけられた葵は大きく頷くとパタパタと二階にあるお風呂場に向かった。

 

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