● ○ ●勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ ● ・・18・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふぅ…ちょっと緊張したかな…」
二階に上がると葵はため息をついて自分のベッドに腰掛けた。
しばらく天井を見ながら下から聞こえてくる声に耳を傾けていたが思い立ったように葵はベッドから降りてシーツをめくって下から道具箱と箱を取り出した。
「しばらくジラルドさん上がって来ないみたいだから大丈夫だよね」
そう言って葵は道具箱を開けた。
その中には裁縫道具が所狭しと入っている。そう葵は廃材である布の切れ端を使ってパッチワーク、刺繍など裁縫をしていたのだ。
オーガンにあげたのはパッチワークで作った小袋だ。オーガンは殊のほかそれを気に入ってくれたようで今は小銭入れにして使っていると小銭を中に入れている所も見せてくれた。
そう葵はオーガンの所に作品を置く事に決めたのだ。オーガンに言われた日から数日後に作品を持っていって置かせて欲しいと言ったら大喜びでナツキの為にすでに場所を片付けて用意をしてくれていた事を照れたように教えてくれた。それから順調に作品は売れていてそれなりに稼ぐ事が出来ている。
そこはオーダーもできる事になっているのでオーダーしたいというお客さんもいたらしい。
だがそうやって決められてしまうと萎縮してうまく作品を作ることの出来ない葵は断る事もできるという事なのでオーダー不可と作品場所に書いて置いている。
今では即日完売してしまうくらい人気が出ているのだ。
でも葵は作品をひとつひとつ丁寧に作りたいので無闇に量産はしていない。でも以前のようにわざと遅く作ったりしていないので作る速度的にはそこそこ早いのである。
だいたい一〜三日おきくらいに買い物ついでに作品を持って行っている。好きな作品を作って認めてもらえることに葵は嬉しくて仕方がない。しかし未だにこの事をジラルドに言い出せないでいる。
「きっとジラルドさんのことだから…大丈夫だと思うんだけど…」
そう葵はちょっとタイミングを逃してしまってたいした事でもないのにジラルドに言い出せずにいるのだ。
というよりたいした事ではないから改めて話すのも変な気がしていえないでいるのだ。
小首を傾げて考えていたが葵はすぐに作品作りに没頭した。
だから階段を上がってきた人の気配に気がつけなかった。
いつもならかなり敏感になっていてジラルドが家に帰ってきている時は彼がお風呂に入っているときだけなどしかしなかった。
もしくは簡単に紙にデザインを描くくらいしかしていない。
皆とジラルドが酒盛りをして下から声が聞こえてくる事に安心しきっていたのかもしれない。
「すごいな〜そんなもんまでできるんだな」
近くから声をかけられてびっくりして目を上げるとにっこり笑っているペルの臙脂色の瞳が目の前に現れて葵は驚きすぎて固まってしまった。
縫っていたパッチワークを思わず握りしめてしまっていた。
「おいおい…驚かしちまったか?折角の作品なんだろ」
そう言ってペルは葵の固まっている掌をそっと外させた。
葵はベッドのすぐ側の床に座っていたのでペルも一緒に床に座ってきた。
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