● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

・・20・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「可愛いもの好きなんだ…じゃあね…これあげる」
そういって葵は道具箱に入れておいた小さな掌に入ってしまうような、パッチワークの要領で色々な布を使ったカラフルなテディベアをペルの手に乗せた。


ペルは驚いたように自分の手に乗せられた小さなくまと、葵の顔を見比べてしまった。
「これ…いいのか?なにか目的があって作ったんじゃないのか??」
自分の手のひらに乗せられたものが物凄く繊細に作ってある事に気がついたペルは思わず葵に確認を取った。


「んん、これは売るつもりはなくて気に入った布地がちょっぴりしかなかったから作ったものなんだ」
「なおさらもらえないぞ?気に入っているんだろ?」


「実はこれもう一個うさぎがいるんだ。僕はそれを持っているからいいの。ほら」
そう言って葵は左右対称に対になっているうさぎを、ポケットに入れておいた小銭入れの小袋ごと取り出して見せた。


耳が長いだけで殆どテディベアと一緒だった。それをキーホルダーやストラップのようにして袋にくっつけていたのだ。


「ほ〜対になっているんだな」
「他につけるところがなくて道具箱に入りっぱなしだったからかわいそうだな〜と思っていたんだ。ペルさんなら大事にしてくれそうだからあげる」
「そうか大事にするよ。ワイロってことで」
ペルは悪戯っ子のような笑みを見せた。


「うんワイロだね」
葵は珍しくはっきりと微笑んだ。あまり表情の動く事のない葵にとっては普通の人が声を立てて笑うくらいの変化だった。


それを見て思わずペルは葵の頭をぐりぐりと大きな手のひらで撫でた。


葵の父親はどちらかと言うと線の細い人で葵と似たような体系の人だったのでこんなに大きな手のひらですこし荒っぽく頭を撫でられたりしたのは殆ど初めてかもしれない。


「俺はペルティル・ファーツって〜んだ。お前は?確かナツキって呼ばれていたけど」
「名前が前でいいんだよね?アオイ・ナツキだよ」


「おぁ?もしかして名前全部ジラルドの奴に話してなかったりする?」
「そういえば…言ってないかも」
葵は既にジラルドにナツキと呼ばれるのが当たり前になってしまっているので気にかけていなかったのだ。


「僕よく考えたらジラルドさんのフルネームも知らないかも…」
例のごとくほとんど無表情で葵は小首を傾げた。それを聞いて呆れてしまったのはペルだ。


(この坊は見かけによらずに性格大雑把だが…ジラルドもジラルドだろ…やべ…さっきの秘密プラスに名前までとか知られたら俺確実に黄泉への扉を御開門だぞ?)


「俺に名前を教えた事は秘密にしとけ。んでジラルドの名前を今日来た俺らの名前を気にするとかきっかけ作って聞いてやれ。あいつは気がきかない所があるから名前聞いてない事に気がついていないのかもしれん。その時に自分のフルネームを伝えたらいい。俺に教えたってのは秘密だぞ?」
そういってものすごく真剣な表情で葵に話すペルの姿は葵のツボにはいってしまい葵はまた笑った。


「ペルさんとは秘密ばっかりだね。分かった、聞いてみる。今聞いてジラルドさんの名前がなんなのか気になっちゃったし」
葵はペルと話してみてジラルドの友人ということもあり気に入ってかなり気を許していた。


その頃下では真剣な話をしながらも葵のもとに行ったペルが気になって仕方がないジラルドがいた。

んま!!奥様聞きまして!?(?)

 *