● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「あぁ…つまみおいしかったよ。ありがとう…え〜と…名前を聞いてなかったね。私はアリオル・フェリオーネ、これがガリィエル・カジキス、そしてそっちが君と一つ違いのランスーレン・ケリーだ。リオル、ガリー、ランスと呼んでくれたらいいよ」


ペルは表情に出さないように気をつけたが…内心ものすごい大慌てだった。
(…やっばいかも…)


「僕?僕は夏木だよ。葵・夏木。僕の国では夏木葵って言ってたんだけど」
ペルの予想に違わず葵はあっさりと自分の名前を告げた。


さっきのペルとの会話は覚えているが…時々、おおざっぱな所がある葵は一石二鳥だなというくらいで皆の名前を聞く事ができるならいいやという気持ちだった。ペルは無言で視線を上に投げた。


(し〜らね…)
当然それに静かにショックを受けたのはジラルドだった。


しかしそれに気付く事なくリオルは話を進めた。
「ほぅ、アオイ・ナツキ…アオイちゃんか〜…いい名前だね」
その呼び方にまたジラルドはぴきっときていた。


葵もその様子に気がつかずに話しを続けた。
「そうかな?ありがとう。…でもできたらナツキって呼んでもらえないかな?」
表情をあまり出さずに葵は小首を傾げた。


暗黒の渦に巻き込まれかかっていたジラルドも今の言葉を聞いて顔をあげた。


「おや?それはかまわないけど…失礼でなければどうしてと聞いてもいいかな?」
リオルが片眉をあげるようにして驚きの表現をしてみせた。


「…ん〜…国柄というか…気を悪くしないでほしいんだけど…僕の国では家族やよほど親しい人じゃないと名前で呼んだりしない事があるんだ。もちろん例外はどこにでもあるけどね」
「親しくなれば名前で呼ぶこともありえるってことか?」
ランスは身を乗り出して聞いた。


「そうだね。ありえるかもしれないね」
葵は軽く縦に顔をふりながら答えた。それを聞いてまた企んだのだろうガリーがにやにやとしながら葵に質問をした。


「ナツキちゃん。ジラルドになら名前呼ばれてもいいか?」
初めてこの家に来た時に先程ジラルドが葵を『ナツキ』と呼んでいた事を覚えていたガリーが意地の悪い質問をした。


ジラルドはガリーを思いっきり睨んだがそんなのどこ吹く風。ガリーはかなりたくさんお酒を飲んでいたので酔っている事は間違いない。


「ジラルドさんがいいならいいよ」
なんでそんな事を聞かれるのかいまいちよく分かっていない葵だったがそれには即答した。


ジラルドは思わず葵の顔をまじまじと見つめてしまった。あまりにも穴が空きそうなほど見つめられたので少し、いたたまれなくなった葵はふっと下を向いたりと左右をみたりと視線をさ迷わせた。


他の人を順に見ていくが皆固まっている。ただペルはほのかに笑んでいたので葵の緊張が少しだけ解けた。


「あの…ジラルドさん嫌だったら今まで通り夏木でいいからね?」
葵は小声で固まっているジラルドに声をかけた。


「あ!…いやすまん。アオイか…いい名前だな。…俺の名前はジラルド・ディアスだ」
「ありがとう。ジラルドさんもなんかかっこいい名前だね」
そう言って葵はほのかに笑みを見せた。回りの人達はジラルドの機嫌がかなりよくなったのを感じた。


「や〜だね〜。現金なやつだな〜…」
ガリーはなんだかんだと言って笑いながらよかったなぁと安心していた。

葵ちゃんったら天然男殺し☆

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