● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「アオイ、行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃい」
結局ジラルドは葵に何をいうでもなく仕事へと向かっていった。確かにもやもやとした思いはあったが昨日のいとけない葵の様子に癒されたのもあった。

それによほど親しい人にしか許さないと言っていた名前を呼ぶ事をあっさり葵が認めた事もあったので気にしない事にしたのだ。

というより未知の領域だったので強制終了してしまったというのが正しいかもしれない。



「さて…と。買い物に行こうかな」
朝の家事を全て終わらせた葵は買い物に行く事にした。戸締まりをして、台車を持って出掛けた。



「あっ…」
葵はふっと横を見上げて声を上げた。道の途中にある木の枝がポキリと皮一枚だけ残して根本に近い所から折れているのを見つけてしまったのだ。

「まだ折れたばかりなのかな…あ〜あ…ひどいな…これは…昨日の風にやられたのかな」
昨日は少し風が強かったのでそのせいで折れたのだろうと葵は予想をつけた。


「それにしても…これなんとかならないものなのかな」
そっと木の側に行って枝を優しく持ち上げた。そして木の枝を折れた所を繋ぎ合わせるようにした。そして折れた所にポケットから出したハンカチを当てて縛ろうとしたが一人でするには困難だった。

「っと…よいしょ」
背伸びをするが…やはりもう一人手をかしてくれる人が必要だった。すると後ろからすっと枝を持ち上げてくれる手があった。驚いて後ろを見るとフードで顔を隠してはいるが雰囲気が優しそうな人が手をかしてくれていた。


「これでいいでしょうか?……え〜と…言葉通じないです…よね…こんな時に限ってはぐれちゃうんだから……」
彼は話しかけてくれているが物凄く気まずそうだ。言葉が通じないというのはどういう意味だろうか?葵は疑問に思いながらも御礼を言った。

「いいえ、ありがとうございます」
そう声をかけて葵は再び枝の方を向いたので相手の驚いた表情に全く気がつく事ができなかった。


「よし、結べた!」
葵はなんとか枝をハンカチで結びあわせた。そして手をかしてくれた人の方に向き直った。

「ありがとうございます。助かりました」
葵は深々と頭を下げて相手に御礼を言った。すると相手は待っていたかのように質問をしてきた。

「もしかして君日本人じゃないですか?」
「?はい??」
「僕も日本人なんです。久しぶりに故郷の言葉を聞きました」

彼は嬉しいようなでも悲しいような…複雑な表情をしてみせた。

 

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