● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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葵は彼の瞳を見つめながら聞いた。
「それ…元に戻したい?」
するりと葵は自分でも思ってもみなかった言葉が口から飛び出してきたように感じた。

「……叶わないけどね…」
彼ははっきりと言わなかったが言外に治せるなら治したいというのを葵は感じとった。

葵はまたほとんど表情を動かすこと無く考え込んだ後に左手を一度みてそれを相手の火傷の痕に持って行った。


「どうしたの?」
彼の戸惑った様子はひしひしと感じたが葵は薄く笑んだだけで彼の火傷の痕に手を滑らせた。


本当に葵はただ触れているだけなのに彼の火傷の痕はどんどん薄くなっていった。


「火傷の痕はどこまであるの?」
不躾ともいえる質問ではあったが葵の真剣な表情に押された形になった彼は素直に答えていた。

「右半身はほとんど…顔から膝くらいまで前も後も…」
その答えを聞いて葵はすっと顔から首、肩、腕、手と順番に手を滑らせていった。彼は何をしているのかいまいちよく分かっていないようで困惑した表情をしている。


葵としても何をしているのかと問われてもはっきりとした答えを返すなんて無理だろう。しばらくそれが続くと葵の顔を汗がつっと伝っていった。

その様子をみて思わず右手を彼は上げて汗を拭おうとしたら…在りし日の姿を取り戻している手に彼は驚きを隠せなかった。

思わず体に手を滑らせている葵を見たが汗だくで青い顔になり唇も紫色に変色している事に気がついて、彼の方も一瞬で真っ青になった。


「もういいからここまで治ったから!!」
すでに膝の辺りまで手を滑らせていた葵を両手で肩を掴むようにして引き離した。

しかしそうされた時には葵の治療はすでに終わっており、葵は膝を折るようにしてへたりこんでしまった。

それを彼は両手を葵の身体を支えるようにしたがあまり体格の変わらない二人なので一緒に地面に座り込んでしまった。

葵はかなり虚脱しており彼の支えがなければ地面に激突していたかもしれない。


「……ありがとう…本当にありがとう…この恩は生涯忘れないよ…」
浅い呼吸を繰り返す葵を腕に抱きしめながら彼はまた涙を流した。

彼が何者か分かった方もいるでしょう…
次回はあのお方が…?

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