● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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その時彼の後から聞き心地のよい低音の声がした。
「柳なにを………その者はどうした?……何故泣いてるんだ?」
そっと近づいて来た彼は後ろ姿だけで柳が泣いているのに気がついた。

そして見知らぬ人間をその腕に抱きしめている事を不審に思ったのだ。引き離したいのはやまやまだったがあまりに柳がしっかりと抱きしめているのでそれをする事ができないので側で様子をうかがうことにしたのだ。


「リィ…ズ………俺…俺は…っ……っく……」
柳は言葉にならないようでたくさんの雫が頬を濡らしている。


あまりの泣きように何かされてしまったのではないかと思ったリィズウェルは柳の前に移動して顔を見た途端に息をのんだ。

「………柳………」
「っ……っく…彼が……ふぅっ…彼が治して…くれたんだ……でも…でも…」
柳は必死にリィズウェルに色々な事を伝えようとしたが涙が後から後からあふれてきて自分でも何を伝えたいのか分からなくなってしまっていた。


しかしリィズウェルには柳の伝えたい事を正確にとらえ柳の腕の中で浅い呼吸を繰り返す葵の様子をみた。一通り見た後に葵の髪の毛を一束掴み上げた。

「……」
彼は髪の毛を凝視していたかと思うとふっと溜め息をついて葵の胸元に手の平を置いた。


「…リィズ…何をするの?」
「気を送り込む。恐らくこのままでは数日は寝込みかねんからな…」
そういうとすぐにリィズウェルは葵に気を送り込み始めた。

すると真っ青で脂汗の浮いていた葵の顔に血の気が少しずつ戻り呼吸も落ち着いてきた。そこまで回復した事を確認したらリィズウェルは葵から手を離した。


「…これでひとまず安心だ。すぐに目を覚ますだろう」
「よかった…」
「…そもそもこの者とはどこで出会ったんだ?」
「ここで彼が折れた枝をハンカチで支えようとしていたから手伝ったんだよ。言葉が通じたから…その…色々話したんだ」
最後の方は少し小声になってしまった柳だった。


「そうしたら…火傷を治したいか?って聞いてきて傷痕に手をあてていったんだよ…」
柳は葵に視線を落としながら話をする。

「なるほど…」
リィズウェルも柳と葵の側に片膝をついている。さっきは引きはがしてやろうと思ったが今はそんな気はリィズウェル自身が不思議に思う位失せてしまっている。

(しかし…よくこの状態で柳を回復させる事ができたものだ…)
リィズウェルは葵の力にただひたすら驚いていた。

 

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