● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「僕がここに来たのは一月以上前。目はなんかある日、鏡をみたら茶色くなってたんだよね。環境の変化のせいかなとも思ったんだけど…」
無表情で小首を傾げて葵は答えた。

「…一ヶ月前か〜…髪の根元黒くなってないけど…染めているの?それともハーフとかで…自毛なのかな?」
「ん〜ん、染めてないよ。こっちに来てからは一度も。…元は目も髪も黒。真っ黒だよ…」
最後の方は声が小さくなってしまった葵だった。


正直髪を染めた時の気持ちがまだあるのだろう事は葵にもわかっていた。憧れていた人に『カラス』みたいと言われてしまって…もし今ジラルドにそんな事を言われてしまったら耐えられないかもしれない。


だから…髪の根元が現れない不思議よりも黒髪と知られない事の方が葵にはよかったのだ。


「…」
リィズウェルは顎に手を当てて少し考え込むようなそぶりを見せた。

「僕はこのままでもいいと思っているんだ。別に生活自体には全く支障も無いし」
葵は小首を傾げて見せた。

「異世界に来た弊害なのかな?リィズそういう事ってあるの?」
柳は側にいるリィズウェルの顔を見上げながら聞いた。

「あ…あぁ。無いわけではない。見た所、特に何か害があるようには見えないから気にする必要はないだろう」
リィズウェルは考え事の途中ではあったが柳の質問に返答した。


その答えを聞いて柳はかなりほっとしたような表情を見せた。柳の中で葵の存在が大きくなっている事を感じたリィズウェルは心の中でそっと苦笑した。

(本来ならこの子と柳を二度と会わせたりしないと思うところなのだろうが…彼の雰囲気のせいかな…そんな気は起こらんな…)
リィズウェルが柳と一緒にいるようになってから初めて他人に例え柳の一部であっても許した瞬間だった。

葵と言えばそんな大層な事をしたとは思ってもいないので例の如く無表情で二人の様子を見ていた。


「ただ…」
「なにかあるの?」
柳はリィズウェルの続けた言葉に心配そうな表情を見せた。

それを見てリィズウェルは柳に安心させるようにそっと微笑んでから葵に向き直った。


「柳を回復させた力というのは…葵といったな?今のお前にとっては諸刃の刃だ」
「危険っていう事…?」
「そうだ。場合によっては死に至ってしまう可能性も在るからなるべくなら使わないほうがいいだろう」

葵は静かにそれを聞いて頷いた。
「分かった…。気をつける」

 

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