● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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しばらくリィズウェルは黙り込んだ後、葵の目を見つめた。葵はリィズウェルの瞳を怯む様子も無く無表情に見つめ返した。

柳はそんな様子を見ながら少しハラハラとしていた。リィズウェルはやがて意を決したように口を開いた。


「…もし…万が一その力をどうしても使わなくてはならないと感じたら私を呼べ」


リィズウェルは葵の瞳をみてその心の中を見透かす勢いで見つめたが葵は全く怯む様子も無く見つめ返してきたのでその提案を出した。

(この葵とやらはこの力を悪用する事はまずないだろう。…ただ…さっきのように無茶はやらかしそうだ…)
ただ一度会ったばかりの人間であるにも関わらずリィズウェルにはそこまでする価値のある人間だととらえられていた。

(恐らく私は今の所…彼以外の人間を柳の側に近づける事は無いだろうからな・・・)


柳の唯一の友人としてリィズウェルに葵が認められた瞬間だった。


「どんなに危機的な状況であっても私を呼べ。名前を呼ぶだけで私は葵の元に赴く事ができる。今回、殆ど怪我自体は治っている柳を回復させた事でもかなり危険な状態にあった。それだけは約束してくれ」
葵はリィズウェルの顔を見上げながら頷いた。

「必ず呼ぶよ」
「ならいい」
「葵君!遠慮なんかせずにちゃんと呼んでいいからね」
柳は会話の流れでなんとなく状況を察した。

先程の葵の力が死と隣り合わせのものであった事を…。リィズウェルが再びその力を使う事になった場合、葵を助ける事を約束した事を…。


「うん。ありがとう」
「また会おうね」
葵と柳、リィズウェルとは再会の約束をして別れた。


「まさかこんな異世界で日本人の友人が出来るとは思ってなかったなぁ…」
葵はのん気にそんな事を思いながらその日の買い物に改めて出かけた。

 

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