● ○ 勘違い王国〜氷の瞳サイド〜● ○ 

・・32-02・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ねぇ…リィズ…」
「…なんだ…」

「葵君になにかあるの?リィズウェルが手を貸さないといけない事があるなんてよっぽどのことでしょう?」
さっきリィズウェルが葵に何かあった場合呼べば必ず駆けつけるという条件がとても気になってしまっていたのだ。

リィズウェルは基本的に柳に何かあったときと首長である長老に何かを言われたときくらいしか動かない。それで十分なのだ。何か必要な事があれば自己責任で様々な事をしていく。でも誰かの為にという事はまずない。


「彼は恐らく気が付いてはいなかっただろうが…柳を命がけで救おうとしてくれた。それだけで彼に力を貸す理由になる」
「…それだけ?」
リィズウェルが嘘は付いていないだろうが何かを隠している事に柳は気が付いた。リィズは苦笑して正直に答えることにした。どのみち柳は葵の事を気にかけているようなので隠そうとしても聞きたがる事は目に見えていたのだ。


「彼は聖獣でも稀にしかいない完全治癒能力者だ。柳の傷跡を跡形もなく消し去ったのはその能力者でしかありえない。葵とやらは恐らく無意識であろうがその能力を封印しているんだよ」
「葵君が…完全治癒能力者…」
柳も聖獣であるリィズウェルにも傷跡の98%までしか回復できない事を知っていた。人間であるのならば通常の人間で80%前後。能力の低いものならばそれに到達することもできない。稀に強い召喚獣や強大な精霊を従えているものならば人間の極みを超えることができるがどんなに極めても90〜95%までしか回復できない事も…だから驚いていた。


「そうだ。だが彼は能力を封印しているのに柳の傷跡を消し去ろうとしたからあのように極端に疲労してしまったんだ。柳の傷自体は治っていたからあの程度ですんだが…もしひどい流血を伴う怪我を回復させようとしたら…抑圧された力を無理矢理引き出す消耗で死ぬ可能性が高い」
「………っ…」
柳は口元に手をやって息を呑んだ。


「完全治癒能力者は本当に稀だ。あの場で私ならすぐに封印をとけた。だが封印をとくと…恐らく彼は望もうが望むまいがろくな事に巻き込まれない。柳の恩人だ、それは私も本望ではない。封印を知らずに使ってしまってはいけないから彼にその旨を伝えたんだ」

「そうだったんだね…そうだよね…彼ならどんな傷も痕も残さずに消してしまうなら…利用されてしまう事もありえるよね…」
「そうだ。だから彼に呼ばれた場合…私が行くのなら柳も連れて行く事になる。いつになるか分からないからそれは覚悟しておいてくれ」

「それはもちろんいいよ。僕は何もできないけど…」
「それでいい」
リィズは柳の額にキスを落とした。



「…さて…神子の祝いに来たんだったな…」
二人は長老に言われて神子の祝いをしにこの地に降り立ったのだ。

「神子は緑を育てる能力者でしょ?完全治癒能力者よりもすごいの?」
「どちらも希少な能力だ。比べる事はできん。まぁ神子の方は国で保護しているようだから悪用されるような事は無いだろう」
「そうなんだね…僕も一緒に行けるの?」
「もちろんだ…私の伴侶だからな…」
リィズウェルは柳の唇にそっとキスを落とした。

神子の祝いに二人が王宮に出かけるまでには数週間の猶予がある。二人はその間この国の観光を楽しんで待つことにしているのだ。
「明日は市場にいってみるか?」
「うん!!行く!」
そういって柳はリィズウェルに抱きついた。

二人はまだまだ蜜月を楽しんでいた。

サブタイトル…どうして誰も気づかないのか…ですから♪
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