● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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怖い実があるものなのだなぁ。どんな使われ方してたんだろうなど思いながら、他の買い物を済ませる為に葵は再び目的の店に向かった。}


「すみません。これを下さい」
葵は自分もそしてジラルドも気に入っている少し小さめの林檎のような果物をさした。食感が林檎なのに味は葡萄みたいな果物だ。

「おう!これは新鮮だよ〜いつも買ってくれるから一つまけといてやろう」
「ありがとう」
いくつかの店の人間と顔見知りになりこうしたやりとりも行えるようになってきた。

「しっかし…嬉しいねぇ…」
「?…なにがですか?」
「もちろん神子様の事だよ。彼の方が現れなすってから作物の成長がよくなったからなぁ」
店の店員は豪快に笑っている。彼は作物の入荷もしているが幾つかはこだわりを持って彼自身が育てているものもあるのだ。だからこその言葉でもあった。

「そうなんですね」
葵は素直に彼のおかげで新鮮なものが食べられるんだと思った。


葵が初めてジラルドと出会った、森の泉も昔の様子を聞いたら自分が見た様子と全く違う事にびっくりしたものだ。事実を葵は知らないから店員の神子に対する賛辞をそういうものなんだ…位の気持ちで聞いていた。


「もうすぐ神子様のお披露目の宴があるんだそうだ。…ひと目でいいからお姿を拝見したいものだ…」
「そうなんですね。でも神子様が現れてからずいぶん時間が経ってるように思うけど…」

「そりゃあ神子様だって神々の世界から来てすぐに宴だと疲れてしまうからな。しばらく休養の時間を持たれていたのだろうさ。あの死の荒野を一気に回復させるほどの力を使われたのだから…」

「そうですね…その宴は一般の人も参加できるの?」
「まさか!とんでもない…だが…そうだなぁ…。今回は聖獣様も祝いにこられるとの事らしいからなぁ…一応王宮に勤めている者でそれなりの階級がある人のパートナーとしてなら入る事が可能かもしれないな…例えば王族に連なる貴族とか…騎士も地位が高ければありえるかもしれないな…」

「へ〜」
「まぁ俺達には雲の上の話だけどな!できれば生きてるうちに…ひと目だけでも姿を拝見したいものだがなぁ。あぁ…長い話につきあわせちまったな!また来てくれよ!」

「はい。また美味しいのが入ったらお願いしますね」
葵はそのままその場を後にした。


振り返るとさっきの店員は嬉しそうにまた他の客に話しかけている。よほど作物がよく育つようになったのが嬉しかったのだろう。それがよく分かる姿だった。

 

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