● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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食料品を必要なものを買い終わった時にはもうすでに昼近くになろうとしていた。
「必要なものは買い終わったし…そろそろ昼食だな…」


「やぁ〜ナツキちゃん〜」
後ろから声をかけて来る人がいた。葵が振り返るとそこにはガリーが立っていた。
「ガリーさん」
「いよぅ!なんだ〜ナツキちゃん買い物?」
「はい」
葵は目の前で笑っているガリーを見つめた。


「ん?なに?俺って男前で見とれちまった??」
「そうですね」
葵は思っていたことを正直に答えた。

(こっちの人達ってどうしてこんなに顔がいい人が多いのかなぁ…)
そう思いながらしみじみとガリーの顔をみた。ガリーにとって葵は無表情で見つめているだけの印象しかなかったが、昨日あった時も表情の変化があまり無いようだったのでこれが葵なのだろうとあまり気に留めずに話を続けた。

「あっさり認められるとこっちとしても照れるね」
実際に照れているのかガリーは自分の顎鬚をしきりに触っていた。そのとき葵の目に白いものが飛び込んできた。


「ガリーさん怪我をされたんですか?」
よく見るとその怪我はまだ血が滲んでいるようだった。微かにではあるが白い包帯に血のあとが見える。

「あぁ…ちょっとな〜…。大した事は無いからよ。ただのかすり傷だ」
そういってガリーは包帯の巻いてある方の手を振った。それを見てドキっとしたのは葵の方だった。

血が滲んでいるにもかかわらず無造作に手を振っているガリーの手が痛そうに見えて仕方が無かったのだ。
「そんな…振ったりしないで下さい」
葵はそっと傷に触れないように掌を押さえるようにして振るのをやめさせた。

「いやぁ…男にとってこれ位の傷は勲章だよ……でも心配してくれてありがとうよ」


ガリー達の職業は怪我をして当たり前の所があり、腕が動かせる程度の出血ならあまり気に留められないのが普通なのだ。

下っ端の兵や下士官などは生傷が耐えないものだ。特に訓練中などにも怪我をする事が多々ある。とりあえず傷はすぐに軍の魔術師によって回復してしまうので怪我に頓着しないものも多いのだ。

怪我は絶対にすぐ完治するというものではないのにすぐ治るから大丈夫と思っている者も多くいる。だからこそガリーは自分の不注意で怪我をしてしまったものをすぐに治そうと思わなかった。

それこそ戦場での自分自身の命を脅かしかねないのだから。

でもそれをガリーは葵に説明しようとは思わなかった。これは自分の信念だからべつに吹聴して回る必要のないものであるからだ。


「なぁに、血さえとまればなんとかなる。これは俺の不注意だしな」
「でもせめて血が完全に止まるまでは振り回すのはやめて下さいね」
心配になった葵はまだ振ったままにしているガリーの傷ついた腕をそっと触って下ろした。


その途端、葵は一瞬目の前が真っ暗になってしまった。


「うおっとぉ!…大丈夫か?」
大慌てでガリーは葵の身体を支えた。

「…え…はい…なんとか…」
葵は立ちくらみかなぁと位にしか思わなかったが、実は無意識にガリーの腕の傷の止血のみを行ってしまっていた。

もちろん葵はリィズウェルの言葉を守ろうとするつもりがあったのは確かだが…葵の痛そうだなぁと思う気持ちが治癒力として作用してしまったようだったのだ。止血だけだったので眩暈だけですんだが。


「疲れてんのか?無理するなよ…荷物は持ってやるから家まで送ろう」
ガリーは心配そうに葵の顔をのぞきんこんだ。
「そんなご迷惑をかけるわけには…ガリーさんは怪我もされているのに」
葵は慌ててガリーが持ってしまった買い物の荷物がのった台車を引き取ろうとした。でもうまく手に力が入らなかった。

「なぁに昨日うまいもん食わせてもらった礼だよ。気にするな。おれは このくらいの怪我でどうにかなるような柔な鍛え方してないから大丈夫だよ。それより顔色が真っ青だ」

ガリーは葵を支えるようにし、荷物も軽々と運んでジラルドの家まで送ってくれた。

 

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