● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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「…アオイ…」
ジラルドは自分の掌にすり寄るように寝返りをうった葵に対して微かな笑みを見せた。

幾分起きている時よりも表情の出ているその顔が先ほどよりも穏やかになったように感じるのはジラルドの自惚れがみせる幻だろうか?


「いやだね。なんだ、その脂下がった顔…みっともないね」
ジラルドのその様子に横槍を入れたのはリオルだった。

ガリーから終業時刻ぴったりにジラルドとリオルに連絡が行ったのだ。

ジラルドはなぜもっと早く教えなかったのだとガリーの胸倉を掴む勢いで怒ったが、葵からジラルドには知らせて欲しくないというのをガリーの思いとの妥協で終業時刻にぴったりに連絡を入れたのだと、それが葵の願いだったと聞かされたら…もう黙るしかなかった。

もっと葵には甘えて欲しいと思っているジラルドとしてはこんな体調を崩したときでさえ頼ってもらえない事に情けなさを感じるばかりだった。自分の不甲斐無さが情けなかった。


「何とでも言え」
「おう!遠慮なく言わせてもらうさ。男も女も食い散らかし放題のお前がこの子を幸せにできるとは思えないよ」
そのセリフにまたジラルドは黙り込む以外なった。

確かに男も女もジラルドの容姿に地位を考えればとっかえひっかえしてもまだ予備があるくらいだった。

事実、葵が側にいるようになってでさえ欲求を我慢できずに手をだしたのは女もそして男もいた。寧ろ無防備にジラルドの前にいる獲物である葵の姿に我慢できずに、という部分が大きかったが…。

だがどんなに他の美男美女を貪ったとしても生理的な欲求は解消できても心の渇望は深まるばかり。その行為の間その者たちの事を考えるわけではなく、脳裏に掠めるのは葵の姿だった。

葵を汚している自分。

無防備な姿を見せる割には甘えも頼りもしてくれない相手にジラルドはいつもと勝手が違う為、もうどうしていいのか分からない状態だった。

今まで望めば手に入らない物などなかったのだから。


「…なにも…この子を諦めろ、なんて言わないよ。もちろんこの子の意思を尊重すべきだと思うけどね」
意気消沈したようなジラルドを見ずにリオルは話す。

「少なくとも身体の欲求を満たす為だけに他人を貪るのはやめた方がいい。他人で欲求が満たされるくらいならこの子を手放してきちんと自立できる状態を作っておあげ。もし本当にこの子が好きだと思うのならこの子の事を真剣に考えてあげるべきだよ。不誠実な事はするな」

リオルは何ものにも執着する様子の無かったジラルドが他人に…葵に好意を持っているというのが嬉しかった。

だがその気持ちの方向の持っていき方があまりにも不器用すぎてこのままではこのジラルドの初めての思いは成就する前に消滅してしまう事を危惧したのだ。

即ち、葵がジラルドに愛想を尽かす事を。


「症状自体はただ身体の力が多少落ちているくらいでたいした事はないよ。まぁ、色々勝手が違う事もあったりしたんだろうね。明日は少なくとも丸一日安静にしてあげたらすぐに良くなる程度だ」
「疲れていたのか……?倒れるほど……」
リオルはあえて過労だと直接伝えずに遠まわしに言ったがジラルドはそれに気が付いてしまった。


ますますジラルドは落ち込んで葵の頬に触れていた掌とは反対の手で顔を覆った。

その様子を見ていたリオルは身体が大きくても他人を気遣うのが苦手な弟分を仕方が無いなと思う気持ちで頭をなでた。普段こんな事をしたら烈火のごとく怒るジラルドも大人しくされるがままになっていた。

「ジル、次は気が付いてあげたらいいだけだよ。あんまり思いつめるとナツキ君にも負担になる。明日は休暇届け出しておいてあげるから二人でゆっくり過ごすといいよ」

そう言って頭をもう一度撫でるとリオルは短く挨拶をしてその場を離れた。

ちょっとBLっぽくなってきたかも?

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