● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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リオルがそっと音を立てないように出て行くのを頭の片隅で感じながらジラルドは葵の頬から手を離す事ができなかった。


自分の不誠実な行動をリオルに指摘されて身体の奥底がカッと熱くなった。でも独りになった今…もうその熱さは感じなかった。
それよりも分かったつもりで不誠実な行為を自分の中で正当化して行ってきた自分の弱さが嫌だった。

葵に邪な思いを抱いたのは確かだ。
無防備に眠る葵の寝息を同じ部屋で聞く事に耐えられず葵には仕事だと嘘をつき欲望にまみれた町、歓楽街に赴いた事も一度や二度ではない。

その一因には葵の年齢にあった。


「……子供だと思ってたんだよなぁ………」
そうジラルドは葵を年端のいかない幼い子供だと思っていたのだ。

だから我慢をするしかなかった。
だから正当化して歓楽街にも赴いた。
子供に手を出すわけに行かないんだからと自分に言い訳をして…。


だが昨日葵の年齢を聞いてショックを受けたのもあるがそれよりも年齢を勝手に思い込んで、それを葵に聴こうとしなかったのもジラルドが色々な事をうやむやにしようとした証拠ではないか。

結局、ジラルドは本気で葵と向き合おうとはしていなかったのだ。仕事だと嘘をついた時の葵の「いってらっしゃい」が重かったのは…苦しかったのは…自分の弱さに負けた証拠だったのではないか。


ジラルドは片手にのった葵のぬくもりを感じながら自分と見つめあう時間を過ごした。




「…んぅ……み…ず…」
ぼんやりと目を開けた葵にドキっとしながらもジラルドは葵に顔を近づけてそっと囁いた。

「水が欲しいのか?」
葵はそっと頷いてジラルドをみた。


いつもよりも表情の出ている気だるげな葵の様子にジラルドは思わず息を呑んだ。

だがこうしている場合ではないと急いで意識を切り替え、そばに置いてあった氷の魔玉の付いた水差しからコップに水を移し変えて葵に向き合った。


「…アオイ起き上がれるか?」
そっと話しかけると葵は身体を起こそうと腕に力を入れた。しかし思うように身体は動かずぽすっとまた枕に逆戻りしてしまい、頼りなげな表情でジラルドを葵は見上げた。

とてもとても無防備な今まで見た事のない表情だった。


「…身体に触れるぞ」
そう言うとジラルドはベッドに座り、葵の身体のほとんどを自分にもたれかかるようにして座らせてコップを手に持たせようと手を添えた。

しかし本当に葵は身体に力が入らないようでうまくコップを持てず、そのまま手をシーツにぽすっと落としてしまった。そしてそのまま身近にあるジラルドを見上げた。

「…持てそうにないのか?」
葵は小さく頷く。

「ほら…」
コップを口元に持っていったがうまく飲み込めないのか水が口の端から首筋を通って零れ落ちてしまった。

葵はコップから口を離して口を拭こうとするがうまくできなかった。
ジラルドは無言のまま自分の親指で葵の口の端をぬぐい首筋は自分の袖で軽く拭いた。

しばらくの逡巡のあとジラルドは自分の口元にコップを持ってきて口に水を含んだ。そのまま葵の唇にジラルドは唇を合わせた。

それに気が付いたのか葵は力の入らない手でジラルドの服の裾に触れるようにしながら薄く唇を開いた。

ジラルドはその隙間に唇を合わせそっと舌で流すように葵に水を飲ませた。


葵は幸せだった。


これはジラルドにとっては看病の一部であるだろうし何十、何百のキスの一回かもしれないけれど…


初めてのキスをジラルドとできて葵は幸せだった。


抱きしめてくれる腕が幸せだった。今のジラルドは葵の事だけを考えてくれる。

ジラルドは何度か水を送り込むようにしてコップ一杯分は飲ませた。


葵は終わってしまった事にちょっと名残惜しく感じながら後ろを向いて飲み終わったコップを置いているジラルドの首筋をぼんやりと見つめていた。

ジルさんったら☆

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