● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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しばらくするとジラルドは頭にタオルを被ってお風呂から上がってきた。その手には紅い魔玉のついた筒状の容器を持っていた。

「……じ………」
葵はしっかり布団に包まれたままとろとろとしながらも、ずっとジラルドが出てくるのを待っていた。

寝てしまったらこの幸せな時間は夢となって消えてしまうのではないかと思ったら寝る事なんてできなかった。でも疲れている身体は休息を欲しがるものだから密かに苦労をしていたのだ。だから思わずジラルドが風呂から上がってきたら声をかけてしまった。

「すまん。待たせたな…。体拭こうか」
ジラルドは葵をきちんとくるんでいた布団をそっとはがした。そのままベッドの開いた場所に腰を下ろすと葵の服に手をかけた。


「…脱がすぞ」
この静かな室内では囁くような声が響く。

葵は小さく頷いた。


ジラルドは上半身から葵のシャツを脱がした。葵の体は力が入らない為かくたくたくたとしていたがジラルドはその騎士として鍛えてきた筋力を生かして葵の体重をものともせずに服を脱がした。

もともと葵が標準よりも軽かったのもあるだろう。この世界ではもっと小さいかもしれない。

ジラルドはあの筒状の容器のふたを開けた。するとすぐに真っ白な煙が上がった。煙が消えたその中にはタオルが絞った状態で入っていた。先ほどの煙は蒸気だったのだ。この容器はホットウォーマーのような役割を持つらしい。

(あんな道具もあるんだ…)
葵はそのジラルドの手元を見ながら感心していた。ジラルドは一つだけタオルを出し、またふたをして葵に向き直った。


「熱かったら言ってくれ」
ジラルドは手である程度適温まで冷ますと葵の上半身を拭っていき新しいシャツを着せた。

下半身に至ると葵は顔を紅くして身を捩ろうとしたが体に力が入らないものだから体が少し動いた程度でどうにもならなかった。恥ずかしくて直視できない葵はその後ジラルドに拭いてもらっている間ずっと目をつぶっていた。

ジラルドは葵が目をつぶっている事に気が付いていたがそのまま続けた。
葵はどこもかしこも綺麗だった。

胸元の飾りも薄い下ばえも、何ものにも侵されていない真っ白な肌も。


下腹部がツキと痛んだ。
だが葵が倒れるほど疲れている事に気が付かなかった自分を責めていたジラルドはただ気持ちよく過ごせるようにと綺麗に拭く事に徹した。

用意したタオル全部を使い切ってしまったのでそれを片付けたジラルドは葵の隣に入った。未だに先ほどの事が頭から離れない葵はジラルドの顔をまともに見る事が出なかった。


「アオイ…」
壁側に顔を向けていた葵の背後からジラルドは腕に抱きこんだ。

自分の腕に葵の頭を乗せて、腹を片腕で引き寄せた。くったりと力の抜けた葵の体は本人にとってはきつさゆえのものであるだろうがジラルドは自分の体にしっくりなじむ様な心地にそっと笑みを浮かべた。


「こっちを向いてくれるか?」
耳元に囁くように言うとすぐに葵の耳はうっすらと紅くなった。でも小さく葵は頷いた。

そっと体の向きを変える。葵は不安げにジラルドを見上げる。本当に今日の葵は無防備だ。

「おやすみ…アオイ…」
まぶたの上にそっとキスを落とすと、葵は顔を俯けてしまったが耳が紅いので笑みを誘う。

ジラルドは腕の奥深くに葵を取り込んだ。まるで誰にも渡さないかのように。


葵はジラルドの力強い心音を耳に朝起きてもこれが夢ではないようにと願いながら睡魔に引き込まれていった。


 

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