● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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その日結局葵は起き上がる事ができなかった。

だからと言って葵はジラルドに対して悪感情を抱く事はなかった。それよりも慌てていたのはジラルドの方かもしれない。あの行為の後くったりとして動けなくなってしまった葵を見て顔色を白くしていた。

大急ぎで葵の体に付いてしまった残滓をタオルで綺麗にした。ジラルドも一人暮らしが長かったものだから葵ほどの腕は無いものの簡単な手料理を用意して葵に食べさせた。

幸い葵がきちんと買い物に行っていた為以前のようにほとんど宝の持ち腐れになっていた冷蔵庫も材料には事欠かなかった。

葵の極上の手料理に慣れてしまったジラルドには到底納得できるような代物ではなかったが、葵は初めてジラルドの手料理といえるものを食べる事ができて、体は昨日よりも楽になっているもののまだ疲労が残っているが、なんだか嬉しかった。

その日はジラルドもリオルが手を回してくれたお陰で休みだった為、葵とゆっくり過ごす時間が取れた。




「アオイ…本当に起きていて大丈夫なのか?」
「…ん…だいじょうぶ」
葵はそっと寝かせておいてくれようとして一人だけ階下に降りていこうとするジラルドに無理を言って下に行きたいと言ったのだ。


こんな事を言うのは、正直葵にとってはとてもとても勇気がいる事だった。今朝のあの行為の真相は葵自身の意識が朦朧としていた事もあり、ジラルドも葵の体を綺麗にしたり、着替えをさせたり、食事をさせたりと大忙しだった為なんとなくうやむやのままになってしまった。

お互いはっきりさせるのも怖かったというのもあった。

だけどあの行為があったからこそ…葵はジラルドの側にいたかった。あの行為が何なのか分からないものの今離れたらきっとジラルドは葵に対して距離を置いてしまいそうな気がしたのだ。


まぁ…正直姫抱きされた時はジラルドの顔をまともに見る事のできなかった葵だった。




「きつかったら言ってくれ」
「……ん」
葵は下の部屋のソファーにジラルドと一緒に座っていた。色々な話をする事ができたように思う。

ジラルドが葵のどの料理が好きだったか、今まで苦手だった野菜の話まで出た。ジラルドはそれを気づかせずに葵に気を使っていたのではないかと思ったが結局葵以外の料理はだめだったから調理法がよかったんだろうとジラルドが言ってくれたので嬉しかった。

昨日よりも楽になっているもののやはりまだ疲れが残っているのだろう。ジラルドと話をしている間にもうとうとしてきてしまった。


「アオイ…?」
「…んぅ…?」
葵は起きなきゃと思い目をこするがまだその目は眠気に支配されていた。

「……………眠いなら…おいで?」
そう言って今朝の事があってからの遠慮による拳一個分の隙間を乗り越えてジラルドは手を差し伸べた。


ジラルドは自分が卑怯だと思った。今朝の事はジラルドが我慢できずにした事なのにも関わらず自分に触れてくるのを葵に選ばせている。怖いのだ。触れてしまった時に葵に拒絶されてしまうのが…。


葵はジラルドの顔を見上げた。あの今朝の性急な接触はまだ怖いが暖かい抱擁であるなら葵には何よりも求めている物かもしれない。


ジラルドの真意がどこにあるのか経験皆無である葵にはまったく分からない。葵はかつての自分の世界であった場所であっても自分に恋人はできない事は思っていた。

だったらこの先恋人ができる可能性にかけるよりも今自分が好きな相手であるジラルドとの接触を離れるその瞬間までに大事にしたい。

葵はジラルドの手に触れた。ジラルドは驚かせないようにとそっと葵の肩を自分に引き寄せた。


ジラルドの香りに包まれて葵は幸せな気分ですべてを内包した瞳を閉じた。

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