● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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翌日には葵の体はすっかり回復してジラルドの朝食を作り、しきりに心配をするジラルドを仕事へと送り出した。
昨日はもともと休みだったんだとジラルドは言ってくれていたが葵はそれが嘘である事くらいなんとなくではあったが分かっていた。

「いってらっしゃい」
「…アオイ無理はするなよ。行ってきます」
そう言ってジラルドは仕事へと向かっていった。




久しぶりに町に出て必要な買い物済ませることが出来た。

オーガンはしばらく姿が見えなかったので心配していたようだ。葵が倒れた時には、既に二、三日経っていたので一週間近く空いたせいもあるだろう。納品も済ませ、布も仕入れた。
ある程度稼ぎも出てきたので端切れ以外のものを使った製作にも踏み切ってみようと思った。それでもジラルドに隠している為小物ばかりだが。


「今度…話をしてみようかなぁ…」
昨日までのジラルドの様子を見る限り大丈夫ではないかと思ったのだ。それに一緒に住んでいるのに隠し事をしている事も後ろめたかった。

もっと大きなものを胸に秘めている為もあるかもしれない。ジラルドへの思いは日に日につのっていく。だからせめて話しても大丈夫と思える事くらい話してみたかった。昨日の穏やかな時を過ごしてそう思えた。


ほてほてと町をゆっくり歩いた。


「やぁ〜ナツキもう体調はいいのか?」
町の中で声をかけてきたのはペルだった。彼の大柄な姿は周りから飛びぬけているのですぐに見つけられた。

彼の臙脂の髪は日の元でみると燃え上がる炎のように見える。


「はい。ご心配をおかけしました」
葵は振り返り頭を下げた。それに慌てたのはペルだ。

そんなつもりでペルは声をかけた訳ではなかったが、葵はジラルドに仕事を休ませて、しかも自分はそれを喜んでいたという事もあり何となく罪悪感を覚えていたのだ。だからつい謝ってしまっていた。

「誰でも体調を崩すことはあるもんだ。しかも俺は何にもしていないんだから気にしないでくれ。な?」
ペルはその大柄な身体を縮めて葵を覗き込んだ。

「いいえ。心配してくださっただけでも嬉しいです」
葵は安心したような微かに笑みを浮かべた。事実ペルは葵が体調を崩しているからと見舞にきてはいなかった
。だがそれは昨日のジラルドの急な休暇を自らの休暇と交換したからだ。

今日は彼にとって代休の日だったのだ。


「いや…そう言われると照れるもんだ」
実際ペルの顔は微かに赤らんでいた。ふと思いついたようにペルは葵に話しかけた。


「そういや、神子様の宴の話をジルから聞いたか?」
「いいえ?」

「そうか…もしジルの奴が何も言ってこなかったら俺と一緒に…宴に出てみないか?」

「え…?」
葵はペルに思いもかけない事を言われて思わず固まってしまった。それに慌てたのはペルだ。

「いやいやいや…行きたくないならそれでいいんだが…その俺も独りだしよかったらとおもったんだ」
ペルは照れたように笑いながら頭をがしがしとかいている。

葵は呆けたようにペルの顔を見ていたがある事に気がつきペルの腰元に目線を移した。

「…あぁ…早速使わせてもらっているよ」
そう言って手に取り出したのは葵が先日渡した小さなテディベアだ。
それを見て葵は躊躇いがちにペルの目を見た。


「…ペルさん他に誘う人がいるんじゃ…」
「俺は独りだから気にしないでくれ」

「…なら…お願いします」
ぺこっと葵はペルに頭を下げた。慌てたようにペルも同じように頭を下げるという奇妙な二人組みになってしまい。


ふと気がついた二人はふっと笑いあった。


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