● ○ 勘違い王国〜どうして誰も気づかないのか〜● ○ 

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 葵はそんな風に誰かと笑いあうという事は今までほぼ皆無だったのでとても新鮮に感じた。特にジラルドの事を好きだと感じた時から彼の前では何か間違った事をしたりしないかと緊張していた。

「よかったら飯でも一緒に食わないか?一度ナツキとはじっくり話をしてみたかったんだ」
「あ…でも…ご迷惑じゃ…」

「迷惑だったら誘わないさ。さぁ行こう。個室になっていて邪魔されずに過ごせる所があるんだ」
ペルは葵の持っている台車をモノ質(?)にするようにして奪いさっさと歩き出してしまった。

気の優しいところもあるみたいだが男ばかりの中に居た為だろうか少々強引で乱暴だったが不快に思う程ではなかった。

葵はまた小さな笑みをその顔に浮かべると大きなペルの背中に付いて行った。



「こんな隠れ家みたいな店もあるんですね」
「看板も出てないから知る人ぞ知るって感じでよく利用してるんだ。昼間は定食、夜は飲み屋に変わる所もいいんだ」
ペルはニコニコとしながらその大きな体躯を椅子に乗せていた。

どちらかというと華奢な葵は椅子が余ってしまう感じなのだがペルが座るとまるで大人が子どもの椅子に間違って座ってしまったようだった。

そこでの料理は旬の野菜をふんだんに使用していてとても美味しくこんな料理を作る事ができればいいなと味を堪能した。

裁縫の話がやはりペルには気になるらしくしきりに裁縫の話や家事について色々と質問された。葵も裁縫についてはオーガンかペルにしか話せないのでいきいきと話をできた。





「神子様の出現は予言されてたんだよ」
葵がかねてから気になっていた事をペルに聞いてみた。

初めて葵がこの地に降り立った時騎士達はあの荒野に神子が現れるのが分かっていたみたいだったので疑問に思ったのだ。

かつての荒野の姿を知らない葵にはあの騎士達の喜びようの意味が分からなかったが、少なくともあの地に何かあるのが分かって探し回っているように感じたのだ。

「予言…」
「そうだ。一応あの辺りに出現されると言われて騎士団総出で捜索したんだよ。もちろん半信半疑のものもいたけどな」

「それはなぜ?」
「砂と岩しかない地に森も、泉も、しかも神子まで出現されるなんていくら腕の言い予言者であっても疑わずにはいられないだろう?」
ペルは苦笑してみせた。

「あぁ…そうか」
葵は納得したようにうんうんと頷いた。確かに何でもかんでもいい事続きだったりしたら人間は返って不安になるものだ。人間の深層心理の上では仕方が無いのかもしれない。


「一応神子がこられると言う事であの荒野は特になにか言ったわけではないけど誰も入らなかったんだ。だからナツキが居たのにはびっくりした」
「すみません…僕は知らなかったんです…」
葵は恐縮したように体を縮めて見せた。現れたばかりで何も知らなかったのだから許して欲しいと思いながら。

「きっと田舎までは予言が行き渡ってなかったんだろうな。本当に別に入ったらダメとか言っていたわけじゃないんだ。そもそも荒野だから人も少なかったしな」
ペルはそう言って一人で納得してしまった。

葵はあれ田舎?と思ったがそう思ってくれた方がいいので何も言わなかった。その長い腕を伸ばし大きな掌で葵の頭を撫でた。そんな事をされた経験の少ない葵は照れたように少し頬を紅くした。



結局自分が誘ったのだからとペルが全ての昼食代を払ってしまった。

遠慮するなと満面の笑みをみせられたら「ごちそうさまでした」とありがたく奢って貰うしかなかった。

ペルはまたどこかに用事があるようなのにおろおろする葵を気にする事なく台車を家の前まで持ってきてくれてそこで手を振って別れた。

体育会系というのは遠い存在だったがペルみたいな人がきっとそういうんだろうなと葵は思った。

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