君を望む ◆  

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「寝ちゃった…」
彼の顔をゆっくり見られるこの瞬間が僕は好きだ。彼の髪は染めてあるみたいだが…根元を見るとかなり色素が薄い。

もしかしたら今の茶髪よりもほんとうの色はもっと薄いんじゃないかと思う。きつめの薄茶の目を閉じると歳相応に見える。本当に綺麗な顔立ちをしている。これで身長だって180はあるはずだ。

僕よりも15センチ以上は高い。こんなにカッコイイ彼が僕みたいな平凡なヤツの相手を気紛れとはいえ相手してくれるというのが不思議でしょうがない。たまには毛色の違うヤツの相手でもしたら楽しいと思ったのかな。だとしても彼の側にいられるのが嬉しくて仕方がない。同時にいつまで側にいられるのかな?


もしかしたら一月後かもしれない。
一週間後かもしれない。
明日かもしれない。
一分後かもしれない。
一秒後かもしれない。


それは僕にはわからない。でも後悔しないように彼のひとつひとつをしっかり心に刻んでおこうと思う。例え見向きもされなくなり…陰からも見る事が出来なくなっても生きていけるように。



「はぁ〜〜ぁぁ…」
大きな欠伸をしながらいつもより早く彼が起きた。いつもはお昼休みの予鈴がなると彼はもぞもぞと起きだす。といっても授業に出る為というよりも僕が授業に行かないといけないから仕方なく起きているんだと思う。

最近は「暇つぶしになる」といって授業に出る回数が増えたみたいだけど…授業を受けるのが面倒くさいみたい。そりゃそうだ。彼はこんな風に少し不良っぽいけど…成績は常に上位10番以内に入っている。彼曰く「教科書を見れば分かるんだから何を苦労する必要がある?」って事だ。

すごいな。僕は勉強して勉強してやっと30番前後なのに。そんな彼に憧れる人は多い。怖くて近寄れないけど…憧れているってヤツも付き合いたいヤツも…男子校ならではだと思うけど、かなりいるはずだ。実際に今日会ったことがあるんだから分かる。




「藤崎!調子に乗ってんじゃないよ!?」
僕よりずっと綺麗で身長も高くてスタイルもいい斎藤君が僕を呼び出して来た。

「あいつはね、お前が珍しいからペットくらいの気持ちで側に置いているんだよ。すっごくあきっぽいんだよ!」
うん、分かっているさ。言われなくても。

「そのうち捨てられるのが目に見えているだろ?」
そうだね。いつ来るか…毎日ビクビクして過ごしているよ。

「あんなにいい男がお前だけで満足すると思う?きっと本命もセフレも、もう他にいるよ?」
僕がしおれているのを見て気を良くしたのだろう。どんどん声に愉悦が混じっていっている。

「というかセフレなんか片手で足りないくらいいるよ?お前みたいなヤツの体で満足できるわけないんだから。とっとと自分から離れたら?彼きっとウザがっているよ?それを察してやるのが付き合って頂いたヤツの唯一の恩返しになるんじゃないの?いつまでもしがみ付いているなんて見苦しいったらないよ」

分かっていても彼の言葉は全部言葉の槍になって僕に突き刺さってくる。分かっていても…やっぱりつらい。でも…
「彼がいらないって…お前の顔なんか見たくないって言うまで僕は別れない」


パァン!


「どこまでも図々しいヤツだな!!」
ジンジンと左頬が痛くなってきた。口の中も鉄臭い味が広がっていく…きっと紅くなるだろう。アザになるかな…

「親切に忠告してやったっていうのに。せいぜい酷く捨てられる事だな。そう遠い未来でもないだろうけどっ」


彼は思いがけず激しい音とアザにびっくりしたみたいに慌てて…でもたっぷりと憎悪を滲ませた目で睨みながら立ち去って行った。


 

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