君を望む ◆  

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「お前午後の授業、自習が一つだけだろ。ざぼるぞ」
「え?」
彼が寝ていると思ってボーっとしている所に声がかかったので一瞬びっくりした。

「適当に理由でっち上げて早退しろ。裏門にいるからさっさと来いよ」
彼はそれだけを言うと、こちらを見もせずに屋上のドアを開けて行ってしまった。

初めてだ…彼が僕をサボるように促すのは…今まで昼ご飯を食べた後とか…朝から彼がさぼる事はたまにあったけど…


ドキンッ


不意に嫌な最悪の事態が脳内を駆け巡る…。もしかして…僕は今度こそ本当に捨てられてしまうのか?もしかしてその話があるのかな?

今まで彼は確かに僕の都合お構いなしに放課後や休みの日に連絡ある無しに関わらず、ホテルに連れ込まれてしまった事もよくあった。でも一度も授業をサボらせるような事はなかった。それが例え今日みたいに午後が自習になってしまったとしても…


いやなドキドキとした鼓動だけが体中を巡る。自分の心臓の音があたり中に響いてしまっているのではないかと思うくらいだ。こめかみが脈打っているのが分かる。怖い。ものすごく怖い。


もしかしたらこれからは彼に触れたり喋ったりするどころか…彼を遠目からでも見ることすらかなわなくなるのかもしれないのだ。…怖い。でももし…彼がそうしたいと思っているなら…僕は付き合ったときから覚悟は出来ている。

覚悟はできていても怖いのは変わらないが…彼がいいと思うように行動できたらいいと思う。もし捨てられても泣かないで笑ってさようならしよう。僕の最後の顔なんてすぐ忘れてしまうかも知れないけど…それでも笑顔でいられるように。涙を見せないように。目に力を入れた。



「行くぞ」
「あ…はい」
彼は裏門に寄りかかって待っていた。そのままスタスタと例の如く歩幅が全く違うのでそれに間に合うように急いで彼の後を追っていった。そのまま電車に乗って結局どこに行くのかもわからないまま、彼の背中だけを追い続けた。

電車から降りてしばらく行くとマンションが見えた。結構新しい感じの建物だった。彼は躊躇う様子もなく入っていきオートロックを解除してどんどん中に進んでいった。

僕はどうしていいのか分からずに躊躇ったがドアが閉まってしまう前にほとんど反射的な動きで無意識に彼の背中を追いかけて建物の中に入って行った。

ここはどこだろうか。彼は全く何も言わずにエレベーターに入って自分の目的の階数を押してボタンの隣にある壁に寄りかかっている。全く僕のほうを向かない。

いつもの事ではあるがいつもと違うシチュエーションという事もあり…余計に不安が煽られた。もしかして気が付かない間にいやな事をしてしまったのか…今日の弁当がいけなかったのか…探し始めたらきりがない。なんでも、どの行動一つとっても全てがいけない事をしてしまっているような気がする。


チンっ


「ここだ」
彼はそういって廊下に出て行った。僕も後を追って付いていく。
とある部屋の前に付くと彼はカード型のキーを出して開けている。


…もしかして…ここは彼の家だろうか?



 

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