君を望む ◆  

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屋上に着いてからも彼の様子はいつもと違った。



いつもなら僕が追いつくのなんか待たずにすでに昼食を食べ始めているのに今日はじっと扉を開けて待ってくれている。

何だろう?彼の中でなんの変化があったのかわからないが明らかにこれはいつもと違う。

「なにやってんだよ?早く入れよ」
「う・・・うん!!」
僕はいつもと違う彼の様子をじっと見つめたまま固まっていたらしい。胸に大きな弁当をもって扉をくぐった。

彼は屋上の柵側を向いてしまった。

今日もしこれで彼の暇つぶしが終わるとしても・・・それでもいいからこっちを向いてほしい。

最後になるんならよけい彼の顔を見ながらその姿を目に焼き付けながら別れたい。

でもそんなわがままを言えるわけもないから僕はやきもきしながら彼の背中を見つめた。


「おまえは俺の暇だけつぶしていればいいんだ!!」


「え?」
きょとんとしてなにも言い返せない僕に焦れたのか彼はおもむろに僕に向き直った。

正直かなり怖い顔をしている。

でも僕は彼が何を言いたいのか全く理解できなかった。だけどそんな鈍い僕が許せなかったんだろう彼の眉はますますつり上がり僕はそんなつもりもなかったのに肩を震わせてしまった。


「チビ…この前の休日に男と歩いていただろう!?」
「お、おとこ!?」
え・・・いきなり何を言い出すんだろう?男と歩いていたのは彼の方ではないの?
あぁ・・・そうだよね。僕がそれを口出す権利はなかった。仕方がないけど最初からいびつな関係だったんだ。
いいんだ。
それは僕も覚悟してる。
でも・・・男?・・・え〜っと・・・

「〜〜〜〜っ!!アイス屋の前で嬉しそうに食べさせあったりしていただろうが!!!!」

彼はますます凶悪な表情になるが・・・僕の中でそれに当てはまるのは兄だけだ。

あ・・・もしかして彼に不愉快な思いをさせてしまったのだろうか。

そうだよね。自分のおもちゃが自分勝手に動いていたらいやだよね。

「あの時一緒にいたのは俺の兄さんだよ。大学生なんだ」
できるだけさりげなく言ったつもりだったけど・・・。

何故か彼は一瞬固まった後すごい勢いでまた前を向いてしまった。
???よく分からないけど誤解はとけたのかなぁ?

「まぎらわしいことすんな!!」
「え・・・ご、ごめん」
大きな声で怒鳴られてしまったので僕は反射的に謝ってしまった。

ど、どうしよう。
よけいに怒らせてしまったみたいだ・・・。

僕は彼の背後でみっともなくただうろたえるしかなかった。

これ以上の失言で彼を怒らせてしまうのが嫌だったのもあるけど、話題の転換を思いつくこともできずただ彼の背中を見ながら彼の反応を待った。



「あ〜〜もう!飯!」
彼はいきなり自分の髪をがしがしとかき回すと勢いよく振り返って言い放つ。

「あ・・・はい!」
僕はあわてて影に向かった彼を追いかけてすでに座った彼の前に弁当を広げた。

彼は取り合えず短く手を合わせるとがつがつと食べ始めた。


その勢いとさっきの勢いの種類があまりにも違いすぎてとっさの反応が遅れてしまい、彼の「喰わねぇならそれも喰うぞ」と言われて慌てて箸を持ったくらいだった。

 

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