君を望む ◆  

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それから何か会話があるというわけでもなくいつも通り膝枕をした。

すぐに彼の寝息が聞こえてきた。

そっとその見た目とはちょっと違う柔らかい髪に触れた。
今だけの僕だけの特権。
もしかしたら彼にこんな風に触れる本命がいるのかもしれない。

あの時彼と一緒にいた男の子のように。

あの子なら今のように寝ている隙に盗むように触れる僕のような浅ましさもなく堂々と彼に触れられるのだろうか?

結局彼は僕と一緒にいた男が気に入らないだけだったのだ。

小さく小さく呟く。
今なら彼に聞かれることもないだろうと思って。

「ねぇ・・・あの時一緒にいたあの子は誰なの・・・」
当然僕は返事があるなんて思ってなかった。

完全に聞き取れない程度の独り言だったはずだ。
しかも寝ている人を起こすほどの音量はなかった。
それは断言できる。

でも・・・
「俺の従兄弟だ」
・・・比喩ではなく心臓が飛び出したんじゃないだろうかと思った。

閉じられていたはずの彼の目ははっきりと開いて僕を見上げている。

未だに彼の頭は僕の膝にあるけれど・・・目線をずらす事もできない。

カタカタと震える手を僕は押さえた。
怖くて怖くて仕方がないのにあの子が従兄弟だった事に僕は不自然なくらいほっとしている。
それと同時に男同士という事事態が禁忌ではあるが従兄弟程度の血のつながりなら障害なんてないに等しいのではないか?

この彼のセリフをどう受け取ったらいいのか僕には分からなかった。

プライベートに口出すなと言われるのだろうか?それともこんな醜い嫉妬をする僕をうっとうしいといって切り捨ててしまうのだろうか。

背中に流れる冷たい汗が辛い。

彼が僕の膝に頭を乗せたまま手を伸ばしてくる。

僕は目を瞑って体を固くした。
今まで彼に殴られたり蹴飛ばされたりなどの暴行を受けた事なんかなかったのにひどく反応してしまった。

ふと膝の重みがなくなると同時に頭に暖かくて大きな手のひらがのった。
こんな扱いをされた事のなかった僕はさっきまでの恐怖も忘れ彼の顔を呆然と見入ってしまった。

今僕の身に何が起きているんだろうと・・・。



「いいか?おまえはこれから先も俺の暇だけつぶしていればいいんだ。外野なんか関係ないからな」
彼にそう言ってもらえたことが嬉しくて、嬉しくて・・・彼の前で初めて涙をこぼした。

あぁ、僕はまだこの人の側にいてもいいんだって許されたような気がする。

昨日いっぱい泣いたから涙なんかでないと思っていたのに・・・彼の前で涙を見せたくなんかなかったのに…僕の目からはまるで蛇口をひねったように涙があふれてくる。


「うぉ…お・・・ぉい・・・?」
涙を見せることで彼がどんな反応をするかなんて僕にはちっとも想像もつかなかったが目の前の彼はひどく狼狽えていた。

見た事もないくらい顔を青ざめさせておろおろと僕に手を伸ばそうとしているようだけど・・・どこに触れたらいいのか分からないみたいだ。

そんな彼が愛しくて切なくて僕は泣き顔のみっともない表情のまま笑ってしまった。

きっと端からみたら滑稽な表情だっただろう。

彼はまた勢いよく僕から目をそらしてそっぽを向いてしまった。

いけない!僕ったら見苦しい姿を彼の目に触れさせてしまった。

大慌てで僕はポケットからティッシュを出して顔を拭った。

「・・・うん。僕でいいなら・・・」
彼にとって僕は暇つぶしでしかないかもしれないけれど彼の側にいられるのならそれでいいかもと思えた。

「・・・分かればいいんだ」
彼はようやくこっちを向いてくれた。

怒ったような表情だけどきっと怒っていないはずだ。

その時遠くで予鈴のチャイムが鳴り響いていた。

 

 *