◇ 暖かい氷の瞳  

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氷はかなり溶けて蛇に食い込んでいる杭の根本近くまできた。


「…それにしても…この杭って何で出来ているのかな…石かな…木…かな?」
茶色だと思うがしかしよく見るとほのかに緑がかって見える…ような気が柳にはしたのだ。


触ったらその振動で蛇に激痛が走るのではないかと思い、なるべく触らないように気をつけながら氷を溶かすことに専念した。


ようやく杭の根本まで溶かしきった。もう柳の手は感覚がわからない。真っ赤になり完全に痺れてしまっている。


「これ…俺が引っ張ったくらいで抜けるかな?」
そう言いながら柳は蛇に振動がいかないようにそっとその杭に手を触れた。


その様子を蛇は不思議な眼差しで静かに見つめていた。手をおいてそっと触っているとピシッ小さな音が響いて杭に細かくひびが入り始めた。


「うわっ!」
びっくりしてしまい柳は後ろに飛びのいた。


その瞬間杭は砕け散って消え去ってしまった。
「よかった…取れたんだ…あっでも傷!」
大慌てで蛇の傷を確認したが回復力がやはり並の早さでは無いようで…跡形も無く傷痕は消え去っていた。


「よかった…傷治っている…もし大出血でも起こしたらどうしようかと思っちゃったよ」
柳はホッとした表情で蛇を見上げた。



蛇は静かに柳の事を見下ろしていたがやがて微かに身じろぎをしだした。その反動で蛇の回りを固めていた氷が小さな音を立てながら砕けはじめたのだ。

それに巻き込まれないように柳は後ろへ下がった。氷はすぐに蛇の体から離れて蛇の尻尾まで見えるようになった。


やはり大蛇の姿は優美で素晴らしかった。蛇は音も無く静かにスルスルと柳の近くまでやってきた。


「よかったね。もう痛くないし…寒くないよね?」
柳はひっそりと微笑んだ。自分がいつも孤独でいる故に蛇がこんな洞窟深くに閉じ込められている事が嫌だったのだ。



「俺を食べるなら、ひと思いに齧っちゃってね」
恐らくこんな所に長く拘束されていたのならすぐにでも食料を欲する所だろう。


間違いなく目の前にいる格好の獲物であり何の力も持たない柳なんてこのサイズの大蛇ならどんなに抵抗したって逃げ切れる物ではない。


「僕がおいしいかどうかは分からないけれど…君の糧になる事ができるなら僕の人生も捨てた物じゃなかったと思えるよ」
そう言って柳は大蛇に向かって心の底からの笑みを見せた。


本当にそう思える自分が不思議だった。


手は未だに感覚がないが…極度の興奮状態にあるのは間違いないだろうなと思った。

 

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