◇ 暖かい氷の瞳  

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青銀に輝く姿態に緋色の瞳を持つ大蛇が静かに目の前に近付き、その口を開いても微動だにせずに微笑みながら柳は蛇の瞳を見続けた。


<<人間…お前は私と同じ色彩を持っているのだな…>>
食べられるために開けられたと思った大蛇の大口からは想像もしていなかった低く艶やかな声が聞こえた。

びっくりしたが蛇と話せたのは嬉しかったので柳は更に笑みを深くした。


「全く違うよ。僕の髪は白髪だし目も色素が抜け落ちただけの赤だから…君の方が何万倍も素敵な色だよ。僕と比べるなんてもったいないくらい」


そう柳はアルビノ。


身体の色素が抜け落ちて生まれてきたのだ。


生まれたばかりの時には既に目は赤かったが髪は色素が薄いくらいの茶髪だった。

しかし小学校から中学校に上がる頃になると成長期の一種だったのか…一気に髪の色素も全て抜け落ちてしまい、真っ白になってしまったのだ。


柳の母親は真っ白に変わってしまった柳の姿を見て絶叫を上げて気絶した後には全く柳を認識しなくなってしまっていた。


…以前の柳も忘れてしまい、柳だけの記憶をごっそりと抜け落ちさせて…



大きな蛇はするすると全く音を立てることもなく柳の周りをその大きな胴体で囲んだ。


「ねぇ…大蛇さん。触ってもいいかな?」
うずうずと触りたくて仕方がなかった柳は喋れる事が分かったので、躊躇いがちに大蛇の顔を見上げながら尋ねた。


<<…かまわん>>
そう聞くと柳は笑みを見せてそっと大蛇の胴体に手を滑らせた。


「蛇って変温動物だから冷やっこいのかと思ったけど…全く冷たいわけではないんだね…」
そう言うと柳は自分の胴体の何倍もある蛇の身体に届ききらないが両手を回して抱きついた。


冷たくもなく、かといって暖かくもなく、さらさらと気持ちのいい蛇の胴体に柳は頬を寄せてじっとしていた。


<<…私を怖いと思わないのか?>>
「思わないよ」
柳は顔を上げる事をせずにそっと囁いた。


正直な話、食べてくれても構わないと思うくらいにこの大蛇に心酔しきってしまっている自分を柳は感じた。


<<何故だ?>>
「それはわからない。でも君を嫌う理由なんて僕の中に存在しないだけ」
そう言って柳は蛇の顔を見上げた。


<<そうか…>>
そう言うとそれっきり大蛇は喋る事もなく身体に抱きついてくる、まるで彼にとっては虫くらいの大きさしかないのではないかと思われる柳の好きにさせていた。


ひとしきり蛇にくっついてその不思議な体温を堪能していた、柳の身体に変化が現れた。




「えぇ!!何これ!!」
足の下から淡い光が満ちていき急速にそれは柳の身体を飲み込んでいこうとしていた。



<<転移か?>>


「やだやだやだ!!せっかく会えたのに!!僕の名前は柳!倉本柳!!君は!?」


<<私の真名はリィズウェル…忘れるな!!>>



その大蛇の今までの穏やかさと打って変わった叫び声を境に柳の意識は遠くに飛ばされてしまった。

 また飛びました…(汗)

 

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