◇ 暖かい氷の瞳  

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次に柳が気付いた時には質素な寝台の上に横たわっていた。右を見ても左を見ても天井を凝視してもリィズウェルの姿はどこにも認められない。


夢だと思おうとしても今現在自分のいる所はどう考えても柳がいた世界とは似ても似つかない場所でしかない。


あの大蛇、リィズウェルと出会えた事が夢ではない事は嬉しくて仕方がないが…この自分の世界にすら帰ってきていない、どことも知れない場所にいる事が悲しくてならなかった。


(こんな別の世界に飛ばすくらいならどうして僕をリィズウェルの側にいさせてくれなかったの…)
そう思うと柳は悲しくて仕方がなくなってしまった。


リィズウェルの元に飛ばされた時には微塵も感じる事のなかった寂寥感が急速に柳の元に押し寄せてきて頬に雫が流れるままにさせた。



『気が付いたかい?』
ひとしきり泣いて目を擦っている柳のタイミングをはかったかのように母親世代くらいの女性が声をかけてきてくれた。

でもその声かけは全く柳が聞いた事もない言語だった。
「はい?…あの…なんでしょう???」

『おやまぁ…やっぱり言葉がわからないのね…あなた!』
その女性は何かを叫びながら扉の向こうに消えてしまった。

結局何を言われたのかさっぱり分からない柳にとってはその女性の行動は奇妙にしか映らなかった。
(なんだったんだろう?それにしても言葉がわからない場所って困るな〜勉強して覚えるのも大変だな…リィズウェルとは話できたのに…)
柳は無意識だが全ての思考の端々にリィズウェルとの事が出てきている。


時間にしたら2時間にも満たなかった出会いだったが柳にとっては何にも変え難い大事なひと時であった事は間違いないだろう。



『なんだと?…やはり言葉が通じなかったか?』
『そうなのよ…あなた、なんとかできないかしら?』
先程の女性が彼女と同じ年頃くらいの男性を連れてきた。恐らく彼らは夫婦なのではないかと思う。


女性は心配そうな顔で男性を見ているので柳の言葉が通じないどうしたらいいかというのを男性に相談しに行ったのだろう。男性は柳の側につくと声をかけてきた。


『はじめまして。ワシの声は聞こえるかい?』
「え〜と…こんにちは?」
『ふむ。本当に言葉が通じないみたいだね?』
そう言うと男性は柳の額に右手の人差し指を当てて何事かを呟いた。


指先から出た淡い光が男性の触れていた所から吸収されて行く。少し驚いた柳は身を引いて額を抑えた。


「な…なに?」
「よかった。ワシたちの言葉がわかるようになったかい?」
柳は目を見開いた。さっきまで理解できなかった言葉がすんなりと理解できたのだ。
「え!?なんで?」
「言葉を理解する魔法をかけたのだよ。どうだいワシ達の言葉は理解できるかい?」


「はい。大丈夫みたいです。ありがとうございます」
(うわ〜…ファンタジーだなぁ…)
「ワシはオーガスタ・ジェンキンスこっちが妻のリリアナだ」
「はじめまして。柳・倉本といいます…あのどうして僕はここに居るのでしょうか?」
すると途端にオーガスタは渋い顔をした。


「うちの馬鹿息子のせいでな…本当に申し訳ないことをした。元の場所に早急に戻れるように手を尽くす。それまではここに住むといい」
結局オーガスタは柳の質問の答えになっていないような台詞でごまかそうとしているのは何となく柳にも感じる事ができた。

 

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