◇ 暖かい氷の瞳  

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「しかし…困った事になったな…」
オーガスタは難しい顔をしている。その隣で先程父親に殴られた頭を擦っていたデイビットも柳の言葉を聞いてから少し神妙な顔をしている。


よほどの事態があったのかと柳は微かに身構えた。
「…困った事って…?」
「あぁ…こんな言い方をしたら余計に気になってしまうな。通常一度の召喚である程度空間に道ができるんだ。術を使っているのが同じ魔術師できちんとした修行を行ってきていたのであれば、その道をもう一度探す事が可能なんだ」
オーガスタは全く魔術の事を知らない柳の為に分かりやすく話してくれている。


「しかし…君のように一度ここまで転移してくるまでにその洞窟に行ってしまっている。洞窟からここまでの道はあるいは必死に探せば見つかるかもしれない。場所はある程度ズレが生じてしまう事もあるがね。しかし…洞窟から君の世界への道は…かなり探すのが困難と言える。洞窟で一度道が途切れてしまったと言えば分かるかな?」
オーガスタは本当に苦悩する表情をしている。


柳に対して本当に自責の念にかられているのがよく分かる。
「はい…なんとなくですが…」
「そうかい?…本当に…困った事をしてくれた。召喚術というのはワシでも滅多に使わないというのに…ペーペーが使い方を間違ったらどうなるか懇々と説明してきたはずなんだがなぁ…」
最後の言葉はほとんどオーガスタの嘆きに近く、誰かに聞いてもらうためというよりも自分の罪を言葉に出して確認していると言った方が正しいだろうか。


その横で彼の息子であるデイビットが真っ青な顔をして真剣な顔をしている。


今までの父親の言葉を聞いてやっと自分の知的好奇心のせいで柳という犠牲者を出してしまったという事に罪の意識を感じ始めているのかもしれなかった。


「でもそんな洞窟にヤナギさんを放置する事にならなくて良かったわ…。ここに来る事はヤナギさんにとって望んでいない事だったと思いますが…」
リリアナもそう言ったっきり黙りこんでしまった。


彼らの言葉を要約すれば洞窟に置き去りにされるよりもここに来た方がマシだった。


召喚術で洞窟までは戻せるかもしれないけど…元の世界に戻る事は全くできないとは言わないが不可能に近いよ、という事だな。と柳は思った。

柳としては元の世界に戻るよりも洞窟に戻りたいという思いしかなかった。

 

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