◇ 暖かい氷の瞳  

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「洞窟まではもどれるのですか?」
考えるよりも先に言葉が出てきた。


「馬鹿息子の力量次第ということになってしまうがね」
オーガスタは少し先程よりも力のない声を出した。


その言葉で勢いを得た柳は思ったままをすぱっと口に出した。
「そこまででいいです。戻してください」


「それはダメよ!!」
リリアナが悲鳴を上げるようにして柳の言葉をさえぎった。柳はそこまで反応されるとは思っていなかったので少しぎょっとした表情でリリアナを見た。


「…そんな訳の分からない世界に行くよりもここにいた方がいいわ。オーガスタはこの国でも高位の魔術師なの。なんとかして元の世界に戻る方法を考えてくれるわ。ね、部屋はあるし…遠慮しないでここに住むといいわ」

「そうだ!!遠慮してそんな世界に戻るなんて言わなくてもいいんだ。全面的な否はこちらにあるんだから君が気に病む必要はない。部屋も用意しよう。ここに住みなさい。ワシもできる限りの手を打ち最善の方法を見つけると約束しよう!」

「それに…その手赤黒くなるまでいって…凍傷を起こしていたわ。足も捻挫で結構腫れているのよ?きちんとした治療を行わないと大変な事になってしまうわ」
オーガスタとリリアナは必死に柳を引きとめようとしている。


柳は二人の言葉の端々から本当の親切を感じた。恐らく彼らはかなり人がいい。きっと柳がここで世話になる事に気後れをしてそんな事を言い出していると思っているに違いなかった。


「いや…あの…」
柳としてはリィズウェルの元に帰る方が元の世界に帰るよりもずっと簡単だというならそっちの方が好都合だと思っての発言だったのだ。


しかしここまで真剣に思われてしまってはこれ以上洞窟に戻りたいというのも変な気がしてそれ以上柳は言えなくなってしまった。


「そうだよ。これは…おれが全面的に、悪かった…んだ。もっと…勉強して、必ず元の世界に…戻すから…そんな、自虐的な事を…言わないでくれよぉ…」
これが決定打だった。


デイビットがもう泣きながら柳に必死に言っていたので…今後はこれ以上の発言はできなくなってしまったのでは…と冷や汗をかいた。


しかしここまでの親切を無下にするのはよくないかと思って柳は諦めた。諦めるなんてもう慣れてしまって何かを感じる事など柳にはなかった。


小さく胸がきしんだがそんなの気が付かない振りをすればいくらでも自分をごまかせた。


「すみません…何もできる事はありませんが…お世話になります」
「んまぁ…何もしなくてもいいのよ。取りあえず手の包帯を替えましょう。消毒して薬草を貼らなくちゃ」
そう言ってリリアナは救急箱を取りにいそいそと行ってしまった。


不本意ながらジェンキンスファミリーと柳の奇妙な生活が始まってしまった。

 

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