◇ 暖かい氷の瞳  

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始めは多少リィズウェルから引き離された事で憤りを感じていた柳だったがジェンキンスファミリーの温かさに癒され、憤りなんかどこかへ飛んでいってしまった。


柳は今まで家族の温かさとはほぼ無縁に育ってきたので、ジェンキンス夫妻の両親として見守るような瞳やデイビットの兄や友人のような気安さが珍しくて戸惑う部分もあった。くすぐったいようないたたまれなさというのはどうしても感じてしまったが、とても居心地がよかった。


現代世界の両親とは会う事もないだろうが…家族3人そろっていた時でさえこんな家族としての温かさを感じる事はなかったなと柳は思った。


家族を感じる事ができた事でいえばこの地に来たのも柳にとって全く無駄な出来事ではなかったのかもしれない。だけど…柳の心の大半を占めていたのはやはりリィズウェルの事だった。


二度の召喚が行われた事によりもしかしたら元の世界に戻れないかもしれないが、一回目に召喚された場所に戻る事ができるかもしれないと聞いてリィズウェルの元に帰りたい一心で柳はその場に戻してほしいとオーガスタ達に言った。もちろんどんな未開の地かもわからないような場所に彼等が戻してくれる事はなかったのだが…


(でも…よく考えてみればリィズウェルはもう氷の拘束もなくなったんだから必ずあの洞窟にいるとは限らないんだよね…)
冷静になった頭で考えてみればリイズウェルが動けるようになった以上いつまでも薄暗い洞窟の中に居続ける必要などないのだ。


(…万が一彼らが安全だと思って洞窟に戻してくれたとしても…そこにリィズウェルの姿があるとは限らないんだよね…)
柳としては自分の気持ちがコントールできないので本当に戸惑ってしまっている。一時間程度一緒にいただけなのに…リィズウェルの事が全く色褪せない。


(…このままもう二度とリィズウェルに会えないのかな…)
そう思うと柳の心はズキリと痛みを訴えてきた。想像に過ぎないが自分の今置かれている状況を考えればそう考えるしかできない。自分にはどうにも出来ない状況が恨めしい。


「もうっ!!ファンタジーは割と好きだけどこんな窮屈なファンタジーなんかいらないよっ」
喚いたら少しだけではあるが柳はすっきりした。深呼吸をしたらだいぶ落ち着いた。朝食の後片付けまで手伝って自室としてあたえられた部屋に戻っていたのだ。


「…部屋にじっとしていたらろくな事考えないよ…家の周りぐらいなら探検させてもらえるかな…」
気分転換もかねて柳はこれから暫く住むことになるであろうこの家の周辺だけでも把握できたらいいなくらいの気持ちで実行してみる事にした。一応家の周辺をうろうろしても大丈夫なのかどうかをオーガスタに確認に柳は行った。


「家周辺を確認がてら散歩したいのですが…」
「あぁ、かまわんとも。暫く住む事になるだろうからの。色々見て回るといい。ご近所にはうちに家族が増えた事は伝えておるから心配はいらんだろう」
オーガスタは快く承諾してくれたので早速家の周辺を探検してみる事にした。

 

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