◇ 暖かい氷の瞳  

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ジェンキンス家は大きな建物ではあるが周りの家も似たような作りばかりだった。大きすぎる建物などはなく、穏やかな田園風景が広がっている。


朝、野菜を届けに来てくれたのはあの畑のどこかで取れたものなのかもしれない。実りによって緑が溢れるような場所よりも大地の色が見えている所が多かった。


恐らく今からが本格的に農業を営む時期に入っているのだろう。所々でクワらしきものを持って畑を耕している人の姿が見えた。ここは魔法の力が浸透しているようで割と生活水準は高い。しかし元の世界のように電柱があちこちにあるような事はない。


火力や電力そのすべてを魔法に関する物で補っているのだ。そしてもちろん高層ビルなんかもないので空を見上げても遮る物が全くないので気持ちがいいと柳は感じた。


家の場所をきちんと覚えて柳は近所へとじわじわ行動範囲を広げていった。色々と見て回るうちに木々に囲まれた大きな溜池にたどり着いた。ここの水は澄んでいて溜池と言うのも憚れるくらいだった。


「どっちかって言うと…泉って感じかな…」
そう言って手をつけてみた。温かい陽気の中での水の冷たさが気持ち良かった。


ひとしきり水に戯れた後に近くにある木を背に辺りの風景を見回した。座ろうと思ったが最近雨が降ったばかりなのだろう。地面が湿っていたので軽くしゃがんで木に背を押し付けるようにした。


昨日までいた世界とは全く違う所に来てしまったな…と柳は思った。どちらかというと元の世界は殺伐としている所があると思う。今までもそう思っていたがこんな穏やかな所に来たら余計にそう思う。

ぼんやりと風景を見ていると足音がしたので後ろを振り返るとデイビットが手に何やら包みを持って気まずそうな顔をしていた。
「……やぁ」
「…やぁ…どうしたんですか?こんな所に…」


「ん…そろそろ昼食の時間になるし…弁当持ってきたんだ」
柳はかなり驚いた。ぶらぶらと色々見て回っているうちに思いがけない程時間が経っていたようだ。
「あぁ…もうそんなに経っていたんですね。わざわざ探して弁当を持ってきてくれたんですか?ありがとうございます」


するとデイビットは奇妙な複雑な表情をしてみせた。
「?」
「ん…あ…いや…いいんだ」
デイビットは木に寄り掛かるようにして柳と同じ体制をとった。


しばしの沈黙が落ちる。柳は誰と一緒にいたとしてもだいたい同じく沈黙になってしまう事が多かったのでぼんやりと空高くに大きく円を描くように飛んでいる鳥を見て何て名前の鳥なんだろうかとぽやっと考えていた。


やはり先に沈黙に耐えられなくなったのはデイビットだった。
「あ…あのな……」
「?」
なかなか言い出せないようでデイビットは口を開いたり閉じたりしながら意味をなさない言葉ばかりを発している。


柳は訝しげにデイビットの方を見た。デイビットは柳が自分の方を見た事でびくっと体を震わせて視線をさ迷わせた。


 

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