◇ 暖かい氷の瞳  

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「あ〜……遅くなったけど…本当にごめんなさいっっっ!!!」
デイビットは殆ど土下座せんばかりの勢いで柳に頭を下げた。


「悪気はなかったとはいえ…君の人生を俺はねじ曲げてしまった!ただ…召喚がどこまで可能か試したかっただけだったんだ…俺は自分の力を過信してヤナギを犠牲にしてしまった…本当にごめんなさい!!」
頭を下げたままデイビットは一気に話してしまった。柳は突然の謝罪に驚いた。


「それを謝りに来たんですか?」
「謝ってすむような事じゃないけど…」
デイビットがかなり萎れてしまっているのがわかる。物事とはいくらそれが最良だと思っていてもどこかでたいてい綻びができてしまう。


それがないように細心の注意を払っていなくてはならないものだ。デイビットもそれだけ大掛かりな魔術を使ったのだからかなりの神経を使って行っていたに違いないのだ。しかし…柳という綻びを作ってしまった…。


「誠心誠意謝ってくれているみたいですし…いいですよ。僕も結局こっちでお世話になっている事ですし…」
柳は気負う様子もなくさらっと返した。

元の世界に帰るよりリィズウェルの元に行きたい。そればかりが頭を占める。柳は自分でも不思議でならない。どうしてここまで彼がまるで運命のように気になるのが…。


「必ず元の世界に戻すからな!!」
デイビットは柳の言葉を聞いて泣きださんばかりに宣言をしてくれた。それに複雑なのは柳だ。元の世界なんて暗闇に戻りたくないと思ってしまった。


「……元の世界とかなにより…僕は会いたい人がいるんです……」
ぽろっと思わず柳は言葉を漏らしてしまった。思いがけず出てしまったが柳はデイビットに聞かれてしまった事よりもリィズウェルは人…でいいのかな〜なんて考えていた。


「会いたい人か…?」
デイビットも目を丸くして聞いている。


「そ、元の世界とか何よりその人の元に帰りたい…そう、思います」
柳は膝に頭を埋めてしまった。デイビットはその様子を見て自分が大事な人から柳を引きはがしてしまった事にいたたまれなさを覚えた。


「そうか…好きな人なんだな…」
しみじみとデイビットが言うのを聞いて柳はは初めて気がついた。


(好き?……これが好き……)
柳は顔を上げて自分の胸に手を置いてみた。そこがそんなはずはないと思うのにいつもより温かいような気がした。柳の中でもその言葉が一番しっくりきた。ようやくリィズウェルが気になる理由が解った気がした。


「そうですね…」
またどちらも黙り込んでしまったが今回の沈黙は穏やかな気がした。


「え〜と…とりあえず弁当食べようか?」
「そうですね」
柳の返事を聞くとデイビットは気を持ち直したように弁当の用意を始めた。


弁当の中には具を挟んであるパンがたくさん入っていた。リリアナがデイビットと柳が二人で食べる事が出来るように多めに用意してくれていたらしい。


水筒らしき何かの木でできたものも入っていた。それを二人は風景を見ながらもそもそと中途半端な格好ながらもおいしく食べた。


リリアナは料理が上手なんだな〜なんて思いながら元の世界で経験した事のほとんどないピクニック気分を味わうことができた。


 

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