◇ 暖かい氷の瞳  

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「今日は街を見て回ったんですってね。場所とかすぐにわかったかしら?」
食後にリリアナが柳にそう聞いてきた。オーガスタから今日の柳の行動について聞いていたのだろう。


「はい、色々みて回りました。あの泉にも行ってみました」
「そこで母さんの作ってくれた弁当を一緒に食べたんだよ」
「天気がよかったのでとても気持ちよかったんですよ」
柳とデイビットは代わる代わる話をした。


柳の中にはすでにデイビット達に対する憤りのようなものは欠片も無かった。むしろこちらに来た事を返って自分の為にもよかったのではないかと思う。


向こうでの世界での常識はここではもしかしたら通じない事もあるかもしれないがそれはこれから覚えていけばいいことだ。恐らく向こうに戻るよりもこちらで生きていく方法を探す方がずっと堅実的なのかもしれない。


今日一日この街を見て回って色々考えた結果柳の中でそう結論付けられた。


「そうか、よかったな」
オーガスタも嬉しそうに柳とデイビットの話を聞いていた。のどかな家族のやり取りだった。


「あの水辺を歩いているうちにかなり広い広場に出たのですが…あれはなにか目的があって作られたものなのですか?」
「あぁ、それも見てきたのだね。あの場所は祭りに使うのだよ。例えば雨乞いとか、豊作祈願したり、豊作を喜んだりなどな。他にも小さな祝い事そうだな…赤ん坊が出来たりした時もそこで祝ったりする」


「俺もあの広場で祝ってもらったんだぜ。他にも亡くなった人の供養をしたり、反対に結婚を祝ったりとかね」
「えと…あの広場は冠婚葬祭を全て行うための場所と思っていいのですか?」
「そうね、その言葉が一番しっくりくるわね」
リリアナも食後の片付けが終わったのか手を拭きながら皆が座っているダイニングのテーブルに着いた。


「そうだの…もうすぐ豊穣の祭りがある時期だからそれに参加してみるのもいいかもしれんな」
「……その祭りには僕が参加してもいいものなのですか?」
自分を卑下するつもりはないがこんな祭りにこの街の人間ではないよそ者である自分が参加してもいいものなのだろうかと柳は純粋に気になったのだ。


「あら、いいに決まっているわ。あなたはもう私達の家族よ」
「同じ飯を食ったんだ。もう気兼ねする必要もあるまい?」
ジェンキンス夫妻は朗らかに控えめな態度で遠慮をする柳を微笑ましい思いで見ていた。


「そうだぞ、俺はそのお前に酷い事をしてしまった本人だから嫌かもしれないけど…弟が出来たみたいで嬉しいんだ」
デイビットも照れながらではあるが柳の方をみて必死に言い募っている。本当にこのジェンキンス一家は温かい。心の中まで温かくなった柳は笑った。


「まぁ…やっぱりヤナギさん笑ったらかわいいわ」
リリアナが喜んでいる声を聞いて柳は瞬時に赤くなった。


「そうだな〜髪も瞳もきれいだしなぁ」
柳はその言葉を聞いて少し体を強張らせたがその言葉の中に嫌悪が一切含まれず純粋に好意だけの感想だったので体の力を抜いた。


こちらの世界ではむしろ髪や瞳に色がついているのが普通なのであまり柳の髪や瞳の色にこだわる人はいないようだ。今日一日色々な所見て回ったが街に来た新しい人間という事で好奇心のこもった珍しそうな眼差しで見られている事は感じたがこの瞳や髪が気持ち悪くてジロジロと見られているような感じは一切無かった。


その点に関してもここに居る事が柳にとってもいい事なのではないかと思う要因だった。

 

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