◇ 暖かい氷の瞳  

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祭りが終わるとその翌日から本格的に農業が始まった。ジェンキンス家にも畑があるようで柳はそこを手伝う事になった。


デイビットもオーガスタも魔術師ではあるが魔術師としてだけで生きているわけでは無いようだ。


どちらかというと魔術師と農業の割合が4:6のようだ。時期にもよるらしいのだがとにかく柳にとっては初めてと言ってもいいくらいの取り組みなので少し緊張した。


三つあるうちの一つの畑をまずクワみたいなものを使って三人で耕しながら、小石や雑草を抜いてまわる作業をした。


慣れない中腰という事もあって柳は何度も身体を伸ばして腰の痛みを解消しなくてはならなかった。


この世界では魔術が多少発達しているようだが、こういう部分ではまだ手作業で行う事が多いようだった。


ようやく種をまいて水をかけてまわる頃には柳は腕、足、腰もどこもかしこも、がびがびになってしまっていた。


慣れない畑仕事に疲れきってしまった柳は夕食時になるとすでに瞼が重く、幼い子どものように頭が船をこいでいるような状態だった。ジェンキンス一家はそれをほほえましい思いで見ていた。


「一生懸命やっていたもんな」
「そうだな…あの手つきじゃあ畑仕事した事なかっただろうに…ヤナギ君はよく頑張っていたよ」
一緒に畑仕事をしていた男衆はとくに柳の様子を把握していた


。恐らく畑仕事をした事はなかったであろう事も見ていれば分かった。しかし柳は弱音の一つも吐く事無く黙々と仕事をきちんと行っていた。


「そうね。真面目な子なのでしょうね」
リリアナも半分寝ながら食事をしている柳を優しい瞳で見守っていた。




三人とも畑仕事から帰ってすぐに汗を流す為にお風呂に入っていた事もあって、柳は夕食を食べ終わるとデイビットの手をかりて早々に寝る事にした。

正直デイビットやオーガスタにあまり疲れた様子がない事もあって柳は少し落ち込んでしまった。


(情けないな…)
デイビットにも小さく謝罪した。


「ごめんなさい…デイビットも疲れているはずでしょう…?」
「いいんだよ。畑仕事自体初めてしたんだろ?ならこうなるのは普通の事だよ」
そう言ってくれるデイビットに感謝した。


ベッドに入ると急速に睡魔がやって来て頭を持ち上げるのももう無理だった。


柳の手の平はクワを持った事でマメが潰れて酷い有様だったがデイビットは夢の中を漂い始めている柳の姿に欲しかった兄弟を思い嬉しく思いながら薬草をつけたりした。


こちらに来たばかりの時にあった凍傷の痕はこちらにきて数日立っているので、ほとんどなくこのまま順調にいけばきれいに完治できる程きれいになっていた。


治療の終わったデイビットは夢の中に完全に入ってしまった柳の身体に布団をのせて明かりを消してそっと出ていった。

 

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