◇ 暖かい氷の瞳  

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その後も他の二つの畑を三人で耕してリリアナも交えて種まきを行った。


畑にあの初めに柳の行った貯水池から水を引き入れている用水路から畑に水を送ったりした。


ここは大気汚染などと無縁の世界の為か水も凄く澄んでいて綺麗だ。底の方まで透きとおって見える。

こんな綺麗に澄んだ空や水、大気を感じる事はよほど田舎の方に行かないと無理だろうなと柳は少しおかしく思いながら感じていた。



それから順調に日々は過ぎていった。柳も畑仕事にも慣れてきて筋肉痛や腰痛に悩まされたりする事が少なくなってきた。


たまにセンジハー一家に会ってライジットの子守りをする事もあった。

そして召喚で柳を元の世界に戻す方法はデイビットとオーガスタが畑仕事の合間に調べてくれているようだったが、柳にとってそれはあまり重要な事では無くなってしまっていた。

リィズウェルの元に帰る事ができるのであればそれが万が一の可能性であっても縋りたい気持ちはあるが…元の世界に戻ってしまっては余計にリィズウェルと出会える確率が下がってしまう。

今のままもしかしたらリィズウェルは近くにいるのかもしれないという、わずかの希望だけでも残しておきたいと思っている。

あの洞窟がもしかしたらこの大陸のどこかかもしれないという可能性が無きにしも非ずであるのならここにいたいと思った。

あんな大蛇がいる場所が元の世界にあるとは思えない。柳の為に一生懸命になってくれているジェンキンス父子に罪悪感を抱きながらも柳は元に帰る方法が見つからなければいいのにと思っていた。




柳の罪悪感を伴った思いが通じたのかどうかは分からないがそのまま月日は三週間過ぎていった。柳が初めてこの地に降り立ってからすでに二ヶ月以上の月日が経とうとしていた。




「作物はまぁそれなりに育ってきているんだが…」
オーガスタが少し眉をしかめてしまっている。その横でデイビットもしゃがみこんで土を指先で持ち上げて崩して様子を見ている。

少し眉間に一瞬では在るがしわがよった事からあまりいい結果ではなかったらしい。
「なにか…いけないことがあるんですか?」
柳は植物がどんどん大きくなっていくのが嬉しくて毎日楽しみに畑仕事に赴くようになっていた。


柳の目から見たら充分豊作のように見えるのだが所詮畑仕事暦二ヶ月程度の素人の判断だ。きちんと農作業を長く行ってきている彼らから見たら何か良くない事が在るようだった。


「いけないというわけじゃないんだけどね〜…」
デイビットはしゃがみこんだまま視線を上に上げている。柳もそれにならって空を見上げてみたがそこには雲ひとつ無い夏らしい快晴である事しか確認できなかった。


「う〜む…まぁ…まだ気に病むほどではないかな…」
オーガスタもぶつぶつ言っている。正直柳には全く何の事を言っているのか見当もつかなかったが農業に関して柳が口出しできる事は皆無と言っていいので気にしない事にした。


(まだ大丈夫って事はそんなに深刻な事態じゃないって事だよね)
なんとなく腑に落ちない部分もあったが今はとにかく作業をするのが大事だった。

 

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