◇ 暖かい氷の瞳  

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結局その日の内に二人帰って来る事はなかった。


リリアナはオーガスタの言っていた通りに日付が変わった後まで起きていては肝心な時に力が出せないだろうからと柳を日付が変わるとともに部屋に促した。

きっとリリアナは起きているつもりだとすぐに分かったが固持したとしても柳に出来る事は皆無だったので就寝の挨拶だけをして部屋に戻った。そのまま一応ベッドに入ったが睡魔はなかなか訪れず…まんじりともせずに時が過ぎるのを待った。

ようやくトロトロとしていた所に玄関で扉が開く音が聞こえて、人の声がした。柳は瞬時に目を覚ましてリビングへといそいだ。



「…全く…くだらん事ばかりつらつらと…」
「あいつら何にもわかってないくせにっ!!!」
ぼそぼそとオーガスタとデイビットが話しているのが聞こえた。

その声がいつもよりずっと荒っぽい事引っ掛かりはしたが帰って来た二人に一刻も早く会いたい一心で戸を開けた。そこにいた三人が驚いたように柳を見ていた。

やはりリリアナはオーガスタとデイビットが帰ってくるのを寝ずに待っていたのだ。

「ヤナギ君…」
オーガスタが心持ち強張った表情をしていたが今の柳にそれを気にする余裕などなかった。


「オーガスタさん、用意どうにかなりました?」
柳が息せき切りながら聞いているのを見ていたがオーガスタは逆に強張った顔から緊張をといた。

「あぁ…また明日の9時頃に作業予定だ。とにかくそれまでしっかり寝ておかなくてはな…」
「どうせヤナギも寝てないんだろ?目が赤い…今からまた寝ておこう。明日はヤナギにも手伝ってもらわないといけないだろうからな」
デイビットが柳の目元に触れてきた。確かに柳の目は中途半端な睡眠のせいか目が充血してしまっている。

「僕よりずっとデイビットの方が疲れています」
目元に当てられているデイビットの手を柳は握った。

デイビットも作業を色々とこなしてきたせいかその瞳の中の疲労を隠す事ができていなかった。

オーガスタもだ。恐らく作業以外でも農作物の育ちについても気になって仕方がなかったのだろう。


それなのにずっと家に居た柳まで気遣ってくれる彼等の気持ちが嬉しかった。

 

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