◇ 暖かい氷の瞳  

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翌日は四人全員で用意に向かった。

広場にたくさんの丸太を持ってきて組み上げた。

クレーンも何もないのに人力だけでどうやって持ち上げるのかと心配していたがオーガスタやデイビットなどの魔術師やセンジハー夫婦のような神官達が魔力を使って持ち上げていたのだ。

こうなっては魔力の使えない人間はする事がないかと思われたが丸太に入れるたくさんの小さな薪木が必要なので魔力がない柳のような人間は森で小枝などを集めたり広場を装飾したりした。

リリアナなど魔力が多少はあるものは魔力を使って、魔力がなくても体格のいい男はオノを使って、丸太を小さく割ったりした。

柳は出来る事を精一杯した。時折見られているような気もしたがそれを気にする余裕は柳には無く必死に働くばかりだった。



そうしてその日は丸太を組み上げ、装飾してしまうあたりまで全て終わり明日の祭りを待つばかりとなった。

へとへとに疲れた街の人間達は瞳にそれぞれ強い疲労と微かな希望をちらつかせながらそれぞれの家へと戻って行った。

柳を含めたジェンキンス一家も重い身体を引きずるようにして家に戻った。


「明日が無事に終わればいいが…」
オーガスタは強い疲労を滲ませながら祈るように話した。

「あなた……」
リリアナも疲労を隠せない表情でオーガスタを見ている。

「とにかく寝よう。明日また朝早いしね」
デイビットも椅子にもたれかかり疲れた声で提案した。みんな異存はなく今日はくたくたに疲れた身体を休める事にした。




朝早く街のみんなは広場に集まり、用意を始める。

そして12:00頃になると上がりきった太陽から炎を集める為に神官が魔術を使い始めた。

カザイックは若いが高位の神官であるらしく大神官の側で一緒に魔術で太陽の光を凝縮し、昨日祭壇に用意しておいた巨大な丸太に青白い火を降ろした。

(あれ…なんに使うのかと思っていたけど…炎を集める為だったのか…)
柳は固唾をのんでその様子を伺った。

元の世界では信憑性の低い儀式だがこれだけ魔術が発達しているのならあるいはうまくいってこの干ばつがどうにかなるのではないかと柳は祈るように彼等の姿を見守った。



あれだけ手塩にかけて育てた作物がどんどん萎びていくさまをつぶさにみてしまった柳は農家の大変さについて身を持って感じていた。

どんなに頑張ってもうまくいかない事はある。

今までの柳の人生そのものがそういった状況の積み重ねであった事は間違いない。

柳がアルビノである事は本人にとってはどうしようもないモノなのに端から周りがどんどん崩れていくのを中心から修復する術も分からず見つめるだけしか出来なかった。

というよりも見つめるだけしかしてこなかったというのが本当のところかもしれない。

柳にはそれを受け止めるには『諦める』ということばかりが先行してしまっていたように思う。諦めれば何も期待しなくてもすむから…でもそれだけではいけない、そう柳は感じていた。


(お願いです。神様、雨を降らせてください。雨を…リィズウェル…お願い)
最初神様に願い事をしていたはずなのに途中で柳にとって一番の心の支えであるリィズウェルに祈ってしまっていた。

他の皆も祈っている。この儀式が成功しない事にはこれからの生活さえ危ういかもしれないのだ。皆必死に祈った。

そして柳はリィズウェルに必死に祈った。


儀式は佳境に入り大神官の詞で締めるところまで来た。

「我らに天の祝福を!水の息吹を我らに!」
大神官が最後の言葉を放った瞬間皆固唾を飲むようにして天を見上げ続けた。

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